「ADR(米国預託証券)の株価はあてにならないのか」「ADRの動きは翌日の日本株に反映されるのか」を知りたい方向けに、仕組みと“ズレ”の主因を体系的にまとめました。
転換比率や為替の影響、流動性や取引時間の違いなど、誤解のもとになりやすいポイントを整理し、参考指標として扱う際の確認観点を提示します。
本記事を読んで、実務で応用しやすい手順を確認しましょう。
米国株で時間外取引はできる?プレ・マーケット、アフター・マーケットについて解説します
ADRとは何?
ADRは米国で日本企業などの株式を取引しやすくするための有価証券とされます。
発行主体や通貨、転換比率を把握すると、価格の読み取りが安定します。
ADR(American Depositary Receipt)は、米国外企業の株式を預託銀行が保管し、その受益権を米国市場で流通させる仕組みです。
表記通貨は米ドルで、原株とADRの対応には転換比率(例:1ADR=原株0.5株や2株など)が設定されます。
上場先はNYSE/NasdaqのほかOTCもあり、板の厚さや開示タイミングが異なる点が特徴です。
価格を日本円で概算する際は、ADR価格×転換比率×USD/JPYという考え方が一般的です。
これらの要素が同時に動くため、単純な「ADR上昇=翌日の日本株上昇」とはならない場合があります。
ADRの株価はあてにならない!
結論からいうと、ADRの株価はあてになりません。
ADRで株価が急上昇したからといって、翌日の東証株価も上昇するとは限らないのです。
ADRをあてにして予測を立ててしまうと、大きな損失を抱える原因になるためやめておきましょう。
あくまでも一部投資家しか参入していない
ADRがあてにならない理由の一つは、あくまでも一部投資家しか参入していないことです。
そもそもADRは、米国以外の株式を米国でも取引しやすいように発行された有価証券です。
投資家たちの多くは東京証券取引所で取引をしているのであり、ADRはあくまでも一部にすぎません。
そのため、多数派ではない一部の投資家たちの動きを追っても、あまり意味はないということですね。
出来高が小さくあてにならない
ADRは出来高が小さくあてになりません。
実際の銘柄で比較してみましょう。
例えばソフトバンクグループ(9984)の場合、ある日の出来高は約550万株でした。
一方ADRにおける同時期の出来高は、約34万株なのです。
ADRの出来高を10倍しても、投資家たちの証券取引所の出来高には届きません。
それだけ小さな出来高による値動きですから、あてにならないのです。
株の「売買代金」と「出来高」の、正しい見方と使い方を徹底解説!
日本の現物寄り付きとズレやすい主因
翌日の寄り付きとADRの動きが一致しない理由は一つではありません。
ここでは、乖離を生みやすい代表的な要因を6つに整理します。
①為替(USD/JPY):米時間中にドル円が変動すると、同じADR価格でも円換算が変わり、ズレが生じます。
②転換比率:比率の取り違えは誤差の大きな原因です。
③時間帯の非連続性:ADRは米時間、東証は日本時間で、ニュース到来や需給の更新が異なるタイミングで起こります。
④流動性・スプレッド:とくにOTCでは板が薄く、気配で動きが誇張される傾向があります。
⑤上場先の違い:NYSE/NasdaqとOTCでは約定の質に差が出やすいとされます。
⑥ニュースの到来順序:米時間のみで材料が出た場合、翌朝の国内報道・先物の反応で再評価が生じます。
ADRの株価があてにならなかった事例
実際に、ADRの株価があてにならなかった事例をみていきましょう。
今回は特に顕著な3つの事例をピックアップしました。
ソニーグループ(6758)
ソニーグループ(6758)の例を見てみましょう。

4月23日のADRが上昇していますが、その直後の東証株価は特に上昇していないことがわかります。
その後4月24日の東証株価が一気に上昇しているものの、コンビニ500店舗に視認検知ソリューションを導入開始というニュースを受けた影響である可能性が高いです。
ADRがあてになるとはいえない一つの理由です。
ダイキン工業(6367)
ダイキン工業(6367)のチャートを見てみましょう。

4月25日のADR株価が、大きく下落しています。
にもかかわらず、直後の東証株価は上昇する形に。
もしもADRをあてにして、下落と予想していれば、大きな損失になりかねないことがわかります。
JSR(4185)
JSR(4185)の例を確認してみましょう。

4月30日のADR株価が急上昇していることがわかります。
しかし、直後の東証株価は上昇することはなく横ばいとなりました。
特にADRの上昇トレンドが、影響を及ぼしていないことがよくわかります。
ADRがあてになるときはそもそもほかの要因が大きい
ADRの値動きがあてになるときは、そもそもほかの要因が大きいです。
決算の発表があった、何か不祥事が発生したなど、大きな値動きにつながるニュースがないか確認してみましょう。
株価に大きな影響を与えそうな材料が出ていれば、ADR株価も東証株価も大きな値動きをする可能性は高いです。
ADRがあてになったから使えるかも、と思わずに、きちんと情報収集をしていくことが重要といえます。
株価の決まり方がわかる!株価が変動する理由と実例も合わせて解説
ADRを“参考指標のひとつ”として扱う手順
単体の値動きを結論にせず、段階的に確認する手順に落とし込むと理解が進みます。
以下は実務で使いやすい観点の例です。
ステップ1:円換算の概算
式はADR価格×転換比率×USD/JPY。前日終値との差分をおおまかに把握します。
ステップ2:関連指標の併読
日経先物夜間・TOPIX先物・米上場の日本関連ETFの方向性を確認します。
ステップ3:国内の需給確認
寄り前の板気配や出来高見込みで当日の需給を把握します。
ステップ4:材料の峻別
開示・報道の有無を確認し、「ADR由来の動き」か「ニュース由来の再評価」かを切り分けます。
これらは“推奨手法”ではなく、情報を偏らせないための確認観点です。
日本の市場チャートと向き合おう
ADRではなく、日本の市場チャートと向き合うようにしましょう。
多くの投資家たちは日本の市場で投資を行っていますし、ADRの出来高は小さくあてにすることはできません。
テクニカル分析をするのであれば、日本の市場チャートをすれば十分です。
ADRを参考にするのではなく、チャートの形やテクニカル指標を活用して分析するようにしましょう。
ADRだけではあてにならないように、分析手法も複数組み合わせるのがオススメ。
投資する根拠はできるだけ多く、かつ自信を持てるものにしておけば、トレードの技術も磨かれていきますよ。
【初心者の基本】株価チャートの見方を解説!相場式シグナルも紹介
まとめ
ADRは米ドル建て・転換比率あり・米時間で取引されるため、為替・時間帯・流動性など複数要因で日本の寄り付きとズレることがあります。
一般的には、円換算の概算、先物・ETFの方向、国内の板気配、ニュースの有無をあわせて確認すると、情報の偏りを抑えやすくなります。
国内チャートの分析は引き続き重要で、単一指標の過信を避ける姿勢が有効です。

著者プロフィール
根本 卓(株塾・インテク運営責任者)
1年間勉強・練習後に2013年から株式投資を運用資金30万円から開始。
地道に続け、7年後に月500万円の利益を出せるように。
その経験を活かし、株塾サービスに反映・インテク記事を書いています。







