FX初心者の方で、為替チャートをみているとローソク足の下に移動平均線といわれる線グラフがあることに気づく人がいると思います。
「チャート上にいつも表示されているけど、この線って実際どう使うの?」と思っている方も多いようです。
そこで今回は、移動平均線がどんなツールなのかについて解説します。
また、移動平均線の見方やFX取引での実践的な使い方も紹介します。
移動平均線とは
移動平均線とは、テクニカル分析ツールの1つで、一定期間(n日間)の終値を平均して線で繋いだものです。
移動平均線は、単純でありながら為替相場のトレンドを簡単に見極められる優れた分析ツールです。
為替レートは常に(分単位、秒単位で)変動しているため、市場全体が買いに傾いているのか売りに傾いているのかを見極めることは容易ではありません。
しかし移動平均線を活用することで、ノイズとなる短期的な価格変動を取り除けるため、トレンドを明確に把握しやすくなります。
さらに、移動平均線は市場参加者の心理状態を映し出す鏡としての役割も果たしています。
このように移動平均線は簡単なツールでありながら、市場のトレンドや心理状態など多面的な情報を凝縮した、投資判断においてかなり有用な分析ツールです。
ちなみに、株や先物取引でも使い方は同じです。
FXで使う移動平均線の種類
FXで使われる移動平均線には、主に3種類あります。
それぞれに特徴があり、トレードスタイルによって最適な選択が変わります。
- 単純移動平均線(SMA)
- 指数平滑移動線(EMA)
- 加重移動平均線(WMA)
これらの違いを理解して、自分のトレードスタイルに合った移動平均線を選んでみましょう。
単純移動平均線(SMA)
単純移動平均線(SMA:Simple Moving Average)は、最もシンプルな移動平均線で一定期間の終値を平均しその数値を繋いだものです。
単純移動平均線の計算式は、以下のとおりです。
- SMA=過去n日間の終値の合計÷n
たとえば、5日SMAの場合で計算してみましょう。
5日目 | 120円 |
4日目 | 110円 |
3日目 | 100円 |
2日目 | 90円 |
1日目 | 80円 |
5日移動平均線 = (120+110+100+90+80) ÷ 5 = 100円
この計算を毎日行い、値を線で繋ぐと単純移動平均線ができます。
SMAの特徴は、一時的な急騰や急落に対して過剰反応しないので基本的なトレンドを把握するのに適しています。
そのため、単純移動線を観察するとFX初心者の方でも市場全体のトレンドを正確に把握しやすいです。
単純移動線は短期的な価格の急な変動に一喜一憂せずに、冷静な判断ができるよう投資家を支えてくれるツールとなります。
指数平滑移動線(EMA)
指数平滑移動線(EMA:Exponential Moving Average)は、新しいデータに重みをおく移動平均線です。
直近の価格に比重をかける計算式となっています。
- EMA= {直近の価格×2+1つ前までのEMA×(n-1)…}÷(n+1)
ちなみにnとは期間を指しています。
計算式は複雑にみえますが、実際に計算してみると直近の価格が1つ多く足されているだけでそれほど難しくありません。
具体例として、5日指数平滑移動線をみてみましょう。
5日目 | 120円 |
4日目 | 110円 |
3日目 | 100円 |
2日目 | 90円 |
1日目 | 80円 |
5日指数平滑移動線=(120+120+110+100+90+80)÷ 6 = 103.333円です。
EMAはSMAより価格変動に敏感に反応するため、トレンド転換点をいち早く察知できます。
そのため、短期トレードを好むFXトレーダーに人気があります。
しかし為替市場の急な転換点をいち早くキャッチできる反面、一時的な反転に惑わされる可能性もあるので注意が必要です。
加重移動平均線(WMA)
加重移動平均線(WMA:Weighted Moving Average)は各期間の価格に対して、新しいものほど大きな重みを付ける移動平均線です。
加重移動平均線(WMA)の計算式は、以下のとおりです。
- WMA={(Pn ×n)+(Pn−1 ×(n−1))+…+(P2 ×2)+(P1 ×1)}÷n+(n−1)+…+2+1
Pnは最新の価格、P1は最も古い価格、nは期間です。
計算式で表すと難しいですが、具体例として5日加重移動平均線をみてみましょう。
日数 | 価格 | 重み | 加重価格 |
5日目 | 120円 | 5 | 600円 |
4日目 | 110円 | 4 | 440円 |
3日目 | 100円 | 3 | 300円 |
2日目 | 90円 | 2 | 180円 |
1日目 | 80円 | 1 | 80円 |
合計 | 15 | 1,600円 |
5日加重移動平均線=1,600円÷15=106.666円となります。
WMAはSMAと比べて最近の値動きの影響を受けますが、EMAほど敏感ではない移動平均線です。
そのため、FX取引においてEMAの感度が強すぎると感じる方はWMAを使うがおすすめです。
短期トレードを主体としながらも、ノイズを少し抑えたい場合に適しています。
移動平均線の種類とは?単純・加重・指数の3つの違いと活用法を解説
FXで最適な移動平均線の期間
移動平均線を使うには、期間を設定する必要があります。
基本的には短期・中期・長期の、3種類の移動平均線を設定します。
多くのFXトレーダーが日足チャートで使っている期間は、以下のとおりです。
短期 | 21日 |
中期 | 75日 |
長期 | 200日 |
これらの期間が重視される理由には、1か月(21日)といった時間的な区切りが市場で意識されやすいことにあります。
また200日移動平均線は、長期投資家や大口投資家が重視する指標であり多くの人々に意識されているため機能しやすいです。
ちなみに、週足チャートでは以下のような設定が人気です。
短期 | 4週、13週 |
中期 | 26週 |
長期 | 52週、90週 |
為替相場は米国企業の四半期決算の影響も受けるため、3か月おきの区切りも注目されます。
ちなみに、移動平均線の設定には、正解がありません。
そのため、ここで紹介した設定を使いつつ微調整していくのがおすすめです。
【プロ直伝】移動平均線の最適な設定値とは?設定変更の方法についても解説します
FXでの移動平均線の3つの見方
移動平均線の見方をマスターすれば、為替市場のトレンドと相場に参加しているトレーダーの心理状態を簡単に把握できるようになります。
移動平均線から相場の状況を読み取るには、主に以下の3つに注目します。
- 1.移動平均線の向きに注目
- 2.移動平均線の角度に注目
- 3.移動平均線と為替レートの位置に注目
それぞれみていきましょう。
移動平均線の向きに注目
移動平均線の向きから、相場のトレンドを簡単に判断できます。
- 上向き:上昇トレンド
- 下向き:下降トレンド
- 横ばい:レンジ相場
移動平均線の向きが上向きなら、買い手が売り手より多く価格上昇が今後も期待されています。
一方下向きなら売り手が買い手より多く、市場は悲観的な見方が多い状況です。
横ばいは、買いと売りの力が均衡し、価格が一定範囲内で上下している状態です。
このように、単純移動平均線の向きに注目するだけで、現在のトレンドを簡単に把握できます。
FX市場は株式市場と異なり24時間取引が行われるため、トレンドを正確に捉えるスキルがより重要となります。
移動平均線の角度に注目
移動平均線の角度に注目すると、トレンドの「強さ」を判断できます。
- 急角度:トレンドの勢いが強い
- 緩い角度:トレンドの勢いが弱い
移動平均線の角度をみると、その通貨ペアの将来の値動きが予想できます。
たとえば、急角度で上昇している移動平均線は値動きが激しくなっていることからも短期的に大きなリターンが期待できます。
しかし、急速な上昇後には大きく調整することが多いです。
このように短期的ではありますが、将来の値動きを予測する手がかりにもなるでしょう。
逆に緩やかな角度で上昇している通貨ペアは、今後も時間をかけて上がっていくと予測できます。
このように、単純移動平均線の角度を観察すると、トレンドの勢いや今後の値動きの予測もできるようになります。
FX市場は値動きが激しいため、移動平均線の角度の変化が起こりやすいことに注意が必要です。
移動平均線と為替レートの位置に注目
為替レートと移動平均線の位置関係から、市場参加者の心理状態を読み取れます。
移動平均線は、ある期間(n日間など)内に取引した投資家の平均取得価格と見なせます。
現在の為替レートが観察している移動平均線より上にある場合、その期間内に参入した多くの投資家は利益を出している状況です。
利益を享受しているトレーダーは一般的に前向きな見方を維持し、保有を続ける傾向があるため、相場は上昇基調を保ちやすいといえるでしょう。
逆に、為替レートが移動平均線を下回っている状況では、多くの市場参加者が含み損を抱えています。
損失を抱えたトレーダーはさらなる下落リスクを避けようと売りやすくなり、その結果相場の下落圧力が強まる可能性が高くなるといえるでしょう。
このように、為替レートが単純移動平均線よりも上にあるのか下にあるのかに注目すると、相場に参加しているトレーダーの心理がわかります。
またFXではレバレッジを利用するトレーダーが多いため、この心理的影響が強まりやすいので為替レートの位置を把握しておくことは重要です。
FXでの移動平均線の使い方
ここからは、移動平均線を活かして実際にFX取引をする方法について解説します。
移動平均線を使った活用方法として、以下の3つの代表的な活用方法があります。
- ゴールデンクロス
- デッドクロス
- グランビルの法則
それぞれみていきましょう。
ゴールデンクロス
ゴールデンクロスは、上昇トレンド転換となる買いシグナルです。
短期の移動平均線が長期の移動平均線を下から上へ突き抜けると、ゴールデンクロスが形成されます。
ゴールデンクロスは最近の価格動向が過去の平均を上回り、以前と比べてさらに需要が供給を上回っていることを示します。
そのため、市場心理が強気へと変化する可能性が高いです。
このタイミングで買いポジションを取ると、上昇トレンドの初期段階から参加できるチャンスとなります。
実際の例でみていきましょう。
このように、ゴールデンクロスでエントリーできると上昇トレンドの初期にポジションを取れます。
FX市場では、特に主要通貨ペアでゴールデンクロスが発生すると多くのトレーダーが注目するため、その後の上昇トレンドがより強まることが多いです。
このシグナルを活用することで、トレンド転換点をより効果的に捉えることが可能になります。
デッドクロス
デッドクロスは、下落相場のはじまりの可能性を示す売りシグナルです。
短期の移動平均線が長期の移動平均線を上から下へ抜けた時に発生します。
この状態は市場が売り優勢に転じたことを意味し、今後価格が下落する可能性が高まっていることを示しています。
実際の例でみていきましょう。
このように、デッドクロスが発生したところから下降トレンドがはじまっています。
デッドクロスの発生を確認した際は、売りポジションを取ると下落相場からも利益を得るチャンスがあります。
グランビルの法則
グランビルの法則は、ジョゼフ・E・グランビルが考案した移動平均線を使ったトレード戦略の基本原則です。
為替レートと移動平均線の関係から、明確な買いシグナルと売りシグナルを見出す方法を示しています。
買いシグナルと売りシグナル、それぞれ4つずつあるのでみていきましょう。
買いシグナルとして注目すべき4つの状況
- 為替レートが移動平均線を下から上へとブレイクした場合
- 為替レートが一度移動平均線を下回ったが、迅速に回復して上昇を続ける場合
- 上昇トレンド中に為替レートが調整で下がっても移動平均線を下回らず、その後再び上昇をはじめる場合
- 下降トレンドの移動平均線から大きく下方に離れて為替レートが急落した後、反発上昇が予測される場合
売りのシグナルとして注目すべき4つの状況
- 為替レートが移動平均線を上から下へと突破し、下落が持続する場合
- 下降中に為替レートが一時的に移動平均線を超えたが、すぐに下降トレンドに戻る場合
- 下降トレンド中に為替レートが上昇して移動平均線に達したものの突破できず、再び下落へと転じる場合
- 上昇トレンドの移動平均線から大幅に上方へ乖離して為替レートが急上昇し、大きな調整が予想される場合
グランビルの法則は、感情に流されない客観的な取引判断の助けとなります。
FX取引では、特に明確なルールに基づく投資が重要です。
今後トレーダーとして取引を重ねる上でグランビルの法則を応用する可能性も十分あり得るので、頭の片隅においておくのがいいでしょう。
株におけるゴールデンクロスの勝率は35.71%!過去20年間のデータから徹底検証
移動平均線を使うときの注意点
ここでは、移動平均線を実際の取引で使うときの注意点を解説します。
これから紹介する注意点に気をつけておけば、大きく資産を減らす可能性を下げられます。
移動平均線を使うときの注意点は、以下のとおりです。
- 損切りを徹底する
- レンジ相場では機能しにくい
それぞれ紹介していきます。
損切りを徹底する
移動平均線を使ったトレード戦略でも、損切りは必ず徹底をしましょう。
なぜなら、価格は需要と供給により変動するため、移動平均線を使っても確実な予測ができないからです。
そのため、ゴールデンクロスが発生しても、必ず上昇するとは限らないことを理解しておく必要があります。
エントリーしたあと、逆の動きをする可能性があることを念頭において相場に挑むのがおすすめです。
「もう少し待てば戻るはず」と損切りできずにいると、小さな損失が大きく膨らむ危険性があります。
それでは資産形成ができないので、最悪でもエントリーした価格から10%以上逆方向に価格が動いたら損切りするのがおすすめです。
レンジ相場では機能しにくい
移動平均線は、レンジ相場では機能しにくいという特徴があります。
価格が一定範囲内を行き来するレンジ相場では、移動平均線も横ばいになり頻繁に交差します。
そのため売買シグナルが頻発し、偽シグナルに振り回される可能性が高いです。
レンジ相場では、長期移動平均線の傾向を確認したり、他の指標と組み合わせたりするとより精度の高いトレードが可能になります。
移動平均線はトレンド相場では効果的ですが、レンジ相場では信頼性が下がってしまうのでその点は理解しておきましょう。
まとめ
今回は移動平均線とはなんなのかについて、FXトレーダー向けに解説しました。
移動平均線はFXチャート分析の基本ツールとして、市場のトレンドを把握するのに有効です。
FX市場では24時間取引が行われていて値動きが激しい傾向にあるため、移動平均線を活用した客観的な分析が特に重要となります。
移動平均線をマスターして、安定したFXトレードを目指しましょう。
【相場流株技術用語】PPP(パンパカパン)・逆PPPとは?移動平均線を使ったトレンド攻略法を徹底解説

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。