株式取引を始めたばかりだと、まだTOBについて詳しく理解できていない方も多いでしょう。
しかし、株式を売買しているのであれば「もしも自分が保有する株がTOBの対象になったら、どうすればいいのか」は必ず押さえておくべきポイントです。
そこで今回は、TOBとは何か、どのようなタイミングで、どんな手続きを経て進行していくのか、株主として何に注意すればよいかなど解説します。
TOBとは
まずは、TOBについて概要を解説します。
TOBの仕組み
TOBとはTake over Bidの略称で、株式公開買付のことです。
株式は一般的に証券取引所を通じて売買取引されますが、TOBでは例外はあるものの原則としては証券取引所を通さず、特定の企業が特定の銘柄を大量に買い注文します。
買い付けをする主体は公開買付者、対象となる企業は対象者と呼ばれ、買付者は買付期間や買付価格、買付予定株数などを公表します。
なお、金融商品取引法でルールが定められているため、上場企業の株式を取得する際、取得後所有割合が1/3超となる場合、その株式取得はTOBでなくてはなりません(金融商品取引法第27条の2第1項第2号)。
なお、TOBは日本語で「株式公開買付」と言います。
ここでいう公開とは買取価格を公開して行う買付という意味で、板に出された注文を逐次約定すると、取引ごとに価格がばらけてしまいます。
また、場外で固定価格買付にすることで市場へのショックを最小化し、早い者勝ちを防いで公募期間中に応募した株は比例配分や全部買付で平等に扱われます。
TOBの目的
TOBの目的は、経営権の取得です。
持ち株比率が高まるほど、権利が大きくなります。
また、TOBには友好的TOBと敵対的TOBの2種類があります。
友好的TOBは、対象者は買付者が株を取得することを事前に了承しており、グループ会社の完全子会社化などで行われます。
敵対的TOBは、事前の了承なく買付することで、ライバル企業の買収などで行われており、買収防衛策が講じられることもあります。
TOBの手順
TOBは、以下の手順で進められます。
■買付の意志決定
買付者が、特定の企業に対してTOBを実施するという意志決定を行います。
友好的TOBの場合は、対象者と協議を経て買付価格や条件を調整します。
■公開買付届出書の提出
買付者は、金融庁に公開買付届出書を提出します。
内容が適法であると認められればTOBを開始し、新聞などで公告をします。
■対象者の意見表明報告書提出
対象者は内閣総理大臣に、TOBに対して賛成か反対か意見表明報告書を提出します。
同時に、報告書の写しを買付者と金融取引所に提出します。
これらは、公告日から10営業日以内に実施されなければなりません。
■対質問回答報告書の提出
対象者が意見表明報告書に質問を記載した場合、買付者はそれに対する回答を対質問回答報告書として提出します。
5営業日以内に内閣総理大臣に提出し、その写しを対象者と金融取引機関に提出します。
■公開買付の実施
買付者が、売却の意志を表明した株主から株式を買い取ります。
すべての株を取得できるわけではなく、あくまで取引に同意した株主の保有株だけが対象となります。
■公開買付成立の公告
買付者は公開買付期間の末日から5営業日以内に結果を公告し、公開買付報告書を提出します。
希望株式数を取得できればTOBは成功です。
TOB後の動き
TOBが行われた後の流れは、上場を維持する場合と上場を廃止する場合にわかれます。
それぞれどのような動きになるか、流れを解説します。
上場維持する場合
上場を維持する場合、TOBが成立して買付者が一定の株式を保有し、対象者の企業は引き続き上場を維持します。
対象者の株式は株式市場で自由に売買でき、株主は企業の価値が上がれば株価上昇や配当増加といった恩恵が受けられるでしょう。
しかし、買付者が経営を主導していくため少数株主の意見は反映されにくくなります。
また、株式市場での流動性が低下することもあります。
上場廃止(スクイーズアウト)する場合
上場廃止(スクイーズアウト)をする場合、TOBの成立で買付者が約9割の株式を取得した後、株式合併や株式売渡請求などを通じて100%の取得を目指します。
買付者がすべての株式を取得したあと、上場廃止手続きが行われ株主は現金を受け取って株式を手放します。
TOB後には経営が安定化することで企業価値が高まることがありますが、株主の意志に関わらず強制的に現金化されるデメリットがあります。
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TOBされた際の株主の動き
TOBされるとどうなるのか、株主の選択肢について解説します。
TOBに応じる
TOBに応じる場合、より大きな利益を得やすいというメリットがあります。
通常、TOBされた企業の株はプレミアム価格となるため、証券取引所を通じて売却するよりも高額となります。
また、証券取引で発生する売買手数料もゼロとなるため、売主にとって非常に有利な取引です。
一方で、上限付きTOBの場合は買付者が上限となる株式を保有すると、それを超える分については抽選となるため売却できないリスクがあります。
TOBに応じない
TOBに応じず取引市場で売却する場合、市場価格での売買となります。
プレミアムがつかず、TOBによって価格が下方に変動していることもあるため、利益を出しにくいです。
また、TOBに応じず株式を保有し続ける場合、TOB後に保有する株の株価が低下するリスクがあります。
TOB後に上場廃止をする場合、株主の意志に関係なく強制的に売却され、購入した時の価格より安値がつくこともあります。
TOBにおける注意点
自分の保有する銘柄がTOBされた場合、何に注意すべきか4つのポイントを解説します。
応募から代金受け取りまで数日のラグがある
TOBに応募しても、すぐに売却して代金を受け取れるわけではありません。
まず事前に設定した期日に応募が締め切られ、買い付け結果が公表され、その後に決済日が決まります。
一般的には応募締め切りから5日程度はラグがあり、「TOBで売却して得たお金をすぐに生活資金にしよう」「このお金を使って次の金融商品をすぐに購入しよう」といった計画を立てると上手くいかないため、注意しましょう。
TOBが不成立になることもある
TOBでは買付者が目標取得株数など成立条件を決定します。
この目標に達しなければTOBは不成立となり、取引自体が発生しません。
また、返却後に株価が大きく変動していることもあるため、成立ありきで次の金融商品購入の計画などを立てないようにしましょう。
価格乖離リスクがある
TOB価格はプレミアムがつくため、市場価格と乖離します。
もしTOBが不成立となると、市場価格が大きく下落することも珍しくありません。
自分の応募した株がTOBの対象となるかは最後までわからないため、TOB価格と市場価格の乖離は常にチェックしておきましょう。
ただし、TOB価格に必ずプレミアムがつくとは限りません。
例えば2025年6月、豊田自動織機はトヨタ自動車を中心とするグループからのTOBを受け入れることを発表しました。
この発表前日の市場価格は1万8,260円でしたが、TOB価格は1株1万6,300円で、買付価格が市場価格を下回るディスカウント価格となり、市場からは失望の声が続出しています。
資金拘束リスクがある
TOBに応募した後は、応募期間終了まで株を売却できません。
また、前述の通りすぐに現金化できるわけではないので、一定期間資金が拘束されるリスクがあります。
他に優良な投資商品を見つけても買い付けができないこともあるので、特に大規模な金額をTOBする場合は、拘束期間を考慮しましょう。
TOBに関するよくある質問
TOBに関するよくある質問について答えます。
TOBとは何ですか?
TOBとは、株式公開買付です。
特定の企業が特定の企業の株を、大量に買い注文します。
証券取引所を通さず売買が行われ、事前に了承を取る友好的TOBと了承を取らない敵対的TOBの2種類があるといった特徴があります。
TOBにおける注意点は何かありますか?
自分の保有する株式がTOBとなったら、売却するのか保有し続けるのかを判断しなくてはなりません。
売却する場合はプレミアムがついてより高額で売れる可能性が高いですが、資金拘束のリスクや、TOBが不成立となるリスクがあります。
単に「市場価格と比べて高額だから」と飛びつくのではなく、事前にメリット・デメリットを考慮して意思決定しましょう。
TOB(株式公開買い付け)とは?その仕組みと株価への影響をわかりやすく解説
まとめ
今回は、TOBについて解説しました。
TOBが発生した場合、株主は自分の保有する株を売却するのか否か、一定期間内に決定しなくてはなりません。
より高額で売りやすい一方、TOB不成立などのリスクがあることも確かです。
価格だけを見て「高く売れそう!」と拙速に判断するのではなく、TOB成立条件などの情報も確認しながら売却するか否かを決めましょう。
株式分割の仕組みからメリット・デメリット、市場動向への備えまでを初心者向けに解説

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。