投資の世界には「リスクプレミアム」という重要な考え方があります。
リスクプレミアムを理解することは、単に高いリターンを求めるだけでなく、なぜそのリターンが期待できるのか、そしてそれに伴うリスクは何かを論理的に把握するために不可欠です。
今回は、リスクプレミアムの基本から、投資判断にどう活かせるかまで、分かりやすく解説していきます。
リスクプレミアムとは
まずは、リスクプレミアムについて解説します。
リスクプレミアムの定義
リスクプレミアムとは、安全資産に比べてリスクのある資産に投資することで、投資家が要求する上乗せのリターンです。
投資家は「損をするかもしれないリスク」を取る代わりに、追加のリターンを要求します。
具体的には、株式リスクプレミアムと社債スプレッド(信用リスクプレミアム)があります。
リスクフリーレート(無リスク資産)との関係
リスクフリーレートとは、元本割れのリスクがほとんどない、安全な資産(無リスク資産)から得られるリターンのことです。
一般的には、国が発行する債券、特に先進国の短期国債などが該当します。
投資家は、どのような投資を行う場合でも、まずこの「最低限のリターン」を確保できると考えます。
リスクフリーレートは、投資家がリスクを取らずに得られるリターンの基準となるものです。
基本的に、投資家が求める期待リターンはリスクフリーレートとリスクプレミアムの合計となります。
資産クラスごとの違い
リスクプレミアムは、投資対象となる資産クラスの持つ固有のリスクによって異なります。
株式は、投資した企業の倒産リスクや、株価の大きな変動リスクを負います。
そのため、投資家は、これらのリスクに対する見返りとして、より高いリターンを要求します。
これが株式リスクプレミアムです。
具体的なリスクとして、企業の経営リスクや市場全体の変動リスク(システマティック・リスク)などがあります。
また、債券のリスクプレミアムは、主に発行体の信用力によって決まります。
国債などの安全な債券はリスクが低いため、リスクプレミアムはほとんどありません。
一方、企業が発行する社債は倒産リスクがあるため、国債よりも高い利回りが求められます。
この利回りの差が社債スプレッドであり、信用リスクプレミアムに相当します。
具体的なリスクとして、発行体の倒産リスクや金利変動リスクなどがあります。
最後に、 為替のリスクプレミアムもあります。
為替取引におけるリスクプレミアムは、通貨間の金利差や将来の変動リスクに起因します。
一般的に高金利通貨を保有する場合、金利収入というプラスのリターンがある一方、通貨価値が下落するリスクを負います。
投資家は、この為替変動リスクに対する見返りとして、追加のリターンを期待します。
具体的なリスクとして、為替変動リスクやカントリーリスクなどがあります。
リスクプレミアムを構成する主な要素
リスクプレミアムを構成する要素について一つずつ解説します。
信用リスク
信用リスクとは、投資先の企業や国が、元本や利子の支払いを滞納したり、債務不履行(デフォルト)に陥ったりするリスクのことです。
社債や新興国債券などの債券は、発行体の信用力が低いほど、デフォルトリスクが高まります。
投資家は、このリスクを負う見返りとして、より高い利回りを要求します。
株式においては、企業の倒産リスクがあります。
倒産すれば株の価値はゼロになるため、投資家はこれを織り込んで高いリターンを期待します。
流動性リスク
流動性リスクとは、資産を売りたいときに、希望する価格ですぐに売却できない可能性のことです。
取引量が少ない資産は、売り手と買い手が見つかりにくく、不利な価格でしか売却できないことがあります。
債券における流動性リスクとして、市場で広く取引されている国債は流動性が高いですが、特定の企業が私募で発行した債券などは流動性が低い傾向にあります。
株式における流動性リスクとしては、上場している大企業の株式は、流動性が高いためリスクは小さいです。
しかし、非公開株式や新興市場の中小企業株は流動性が低く、売却に時間がかかったり、安値でしか売れなかったりするリスクがあります。
不確実性リスク
不確実性リスクとは、将来の価格変動や経済状況が予測困難となるリスクです。
これは、市場の変動性(ボラティリティ)と密接に関わっています。
株式においては、企業の将来の収益や成長性には、常に不確実性が伴い、新しい技術の登場や競合の台頭など予測できない要因によって株価は大きく変動します。
投資家は、この不確実性を負う見返りとして、高いリターンを期待します。
為替においては、各国の金融政策、政治情勢、経済指標など、予測が非常に難しい要因によって為替が変動します。
この予測困難性が、為替取引におけるリスクプレミアムの一因となります。
リスクプレミアムの活用法
リスクプレミアムをどのように活用すればよいか解説します。
ポートフォリオ構築における役割
ポートフォリオを構築する際、投資家はリスク許容度に応じて、各資産クラスにどのくらいの比重を置くかを決めます。
リスク許容度が低い場合、国債や高格付けの社債などリスクプレミアムが低い比較的安定した資産を中心にポートフォリオを組みます。
リスク許容度が高い場合、株式や新興国債券などよりリスクプレミアムが高い資産を多く組み入れることで、高いリターンを狙います。
投資商品の選び方
リスクプレミアムをベースに投資商品を選ぶ場合、まずは「ポートフォリオ構築における役割」で解説したように自身のリスク許容度に合わせて選択しましょう。
また、景気を見ながら選ぶ方法もあります。
景気拡大期は株式のリスクプレミアムが高まりやすい一方、債券のリスクプレミアムは低下することがあります。
景気後退期は株式のリスクプレミアムは低下し、債券のリスクプレミアムは高まる傾向があります。
異なるリスクプレミアムを持つ資産を組み合わせることで、ポートフォリオ全体のリスクを分散し、特定の市場変動による影響を和らげることができます。
リスクプレミアムは常に変動する
リスクプレミアムとは「リスクを取る代わりに欲しい上乗せの利回り」です。
景気、金利、ニュース、投資家のセンチメントで毎日動くので、必ず同じ期間の国債利回り(無リスク金利)と比べましょう。
リスクプレミアムが高いときは、投資家が不安な状態で将来の利回りは高い数値を求めますが、短期の上下は大きくなります。
リスクプレミアムが低いときは、投資家が楽観視している状態で、将来の期待利回りは低めで短期は値動きが落ち着きがちです。
リスクプレミアム活用の注意点として、定期的に配分を元に戻す、リバランスが重要です。
高いときは少し増やす、低いときは少し減らすことを機械的に行います。
また、時間分散にも配慮し、一度に買いすぎず毎月など分けて買うと、変動があっても平均化できます。
さらに、手数料と税金を引いた数字で判断することが不可欠で、表示利回りではなく実質の見込み利回りをチェックしましょう。
金融商品ごとに見る際は、株の場合は国債利回りと比べて、どれだけ上乗せが期待できるかをチェックしてください。
社債は国債より利回りがどれだけ高いかを見て、為替は金利差だけでなく値動きの大きさも見ましょう。
なお、リスクプレミアムは「当たる約束」ではなく期待値であるため、数字だけで即決せず、「積立+リバランス」という仕組みでコツコツ運用しましょう。
リスクプレミアムの注意点
リスクプレミアムに関する注意点を解説します。
リスクプレミアムは将来の利益を保証しない
リスクプレミアムは、将来得られる期待リターンであり、利益が保証されるものではありません。
投資家がリスクを負うことに対する見返りとして、論理的に期待されるものにすぎず、現実の市場には様々な不確実性が存在し、常に理論通りに動くわけではありません。
また、一般的にリスクが高い資産ほど、期待されるリターンも高くなりますが、必ず高いリターンが得られるわけではない点にも注意しましょう。
ハイリターンを追求するリスク
リスクプレミアムが高い資産クラスは高いリターンを期待できますが、その裏には投資家が負うリスクが潜んでいます。
一般的に価格の変動幅(ボラティリティ)が大きくなり、ハイリターンを追求して多くの資金を投じると短期間に大きな含み損を抱える可能性があります。
また、売りたいときにすぐに売却できなかったり、不利な価格でしか取引できなかったりするリスクもあります。
リスクプレミアムを理解することは非常に重要で、ハイリターンを追求する際にはそれに伴うリスクを十分に把握し、自身の投資目的やリスク許容度に合った範囲で行うことが不可欠です。
リスクプレミアムに関するよくある質問
リスクプレミアムに関するよくある質問に回答します。
Q.リスクプレミアムが高いとどうなるのですか?
リスクプレミアムが高い場合、投資家は市場の不確実性やリスクを警戒しており、株式や社債といったリスク資産の価格が低迷している可能性があります。
将来的に市場が回復した際に、高いリターンを得るための投資チャンスとなり得ます。
一方で、市場全体のリスクが高まっているサインとなっているケースもあるでしょう。
Q.リスクプレミアムで商品を選んだ方がいいですか?
リスクプレミアムは商品を選ぶ際の重要な判断基準の一つになりますが、これだけで全てを決めるべきではありません。
リスクプレミアムが高い商品を選んだとしても、景気後退や企業の経営悪化などにより期待したリターンが得られず、元本を大きく割り込む可能性があります。
まとめ
リスクプレミアムは、投資家がリスクを取ることで期待する追加リターンのことです。この概念は、投資判断において非常に重要な役割を果たします。
リスクプレミアムは景気や金利環境によって常に変動するため、現在の相場がリスクに対して割安か、割高かを判断する羅針盤として活用できます。
将来の利益を保証するものではありませんが、投資家がリスクを評価し、自身のポートフォリオを構築する上で、欠かせない概念と言えるでしょう。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。