株式投資というと、「安く買って高く売る」というスタイルが定番です。
でも実は、「先に売ってあとで買い戻す」ことで、株価が下がっても利益を狙える方法があるのをご存じでしょうか?
それが「空売り」です。
空売りを上手に活用できると、下落相場でもチャンスをつかめたり、持っている株の下落リスクを抑える手助けになったりします。
しかし、空売りにはリスクやコストがともなうのも事実です。
本記事では、そんな空売りの基礎から、口座開設、証拠金の仕組み、そして逆日歩という追加の費用までを解説していきます。
「空売り」の定義とは?
空売りとは、まだ持っていない株式を借りて売り、時間が経って株価が下がったところで買い戻すことで利益を狙う取引手法です。
通常の現物取引は「買ってから売る」という流れですが、空売りは「先に売って、あとで買う」ので、株価が下がるほど利益が出るという仕組みになっています。
たとえば、1株1,000円で借りた株を先に売り、あとから株価が900円に下がったときに買い戻せば、1株あたり100円の差額が得られます。
ただし、もし株価が反対に上がってしまったら、買い戻すほど損失が増えるリスクもあるため、空売りには特有の注意点が多いのも事実です。
現物取引との違い
現物取引は、買った株を自分の資産として保有するため、もし株価が下がってしまっても損失に限界があります。
一方、空売りでは借りた株を売っているため、株価が上がるほど買い戻しコストが際限なく膨らみ、理論上は損失が無限大になるリスクがあります。
空売りをする場合は、必ず損切りラインや資金管理を徹底することが重要です。
言い換えれば、現物取引は上昇相場で利益を狙う方法、空売りは下落相場で利益を狙う方法と考えるとイメージしやすいかもしれません。
空売りを始めよう!信用取引口座の開設手順
空売りを行うときには、「信用取引口座」という専用の口座を開設する必要があります。
通常の証券口座だけでは空売りはできません。
ここでは、口座開設の流れをかんたんにご紹介します。
口座開設の申込
まずは、証券会社で現物取引用の口座を開設し、つづけて「信用取引口座の開設手続き」を申し込みます。
本人確認書類やマイナンバーの登録といった基本的な作業が必要で、最近はオンラインで完結できる証券会社も増えています。
申し込み画面で「信用取引口座を追加する」といった選択をすると、必要事項を入力できるようになるのが一般的です。
審査
信用取引は、買い付け余力よりも大きな金額を動かせる「レバレッジ」という仕組みがあるため、証券会社は申込者の投資経験や資産状況をチェックします。
審査に落ちてしまう場合もありますが、その基準は証券会社によって違うので、もし断られてしまったら別の証券会社を検討しましょう。
信用取引口座の開設完了
審査に通れば、信用取引口座が使えるようになります。
証券会社の画面やアプリを開くと、「信用取引」のタブやメニューが表示され、そこで「空売り(信用売)」の注文を出すことができます。
開設したばかりで使い慣れていないうちは、なるべく小さな金額から試してみることがおすすめです。
いきなり大きなポジションを取ると、リスクも大きくなってしまいます。
保証金振替
信用取引では、実際に空売りなどを行う前に「証拠金(保証金)」を口座に入れておく必要があります。
口座開設が終わったら、証券会社の案内に従って、取引に使う資金を証拠金として振り替えましょう。
保証金が十分にないと、空売りの注文を出そうとしても「担保不足」とみなされて取引できない場合があります。
初心者の方は、余裕をもった資金を用意しながら、自分のリスク許容度に合った範囲で始めてみるのが安心です。
知っておきたい「証拠金」の基礎知識
信用取引では、証券会社に担保として預けるお金を「証拠金」と呼びます。
証拠金はレバレッジの元になると同時に、もし損失が発生しても証券会社が回収できるようにするための仕組みでもあります。
証拠金とは?
証拠金とは、簡単にいうと「これだけのお金を担保に入れているから、空売りをさせてください」と証券会社に預ける資金のことです。
空売りでは、手元の資金より大きな金額を動かせる場合がある一方、予想が外れて株価が上がってしまえば、損が膨らむリスクも同じだけ高まります。
そのため証券会社は、安全策として証拠金を預かり、万が一の損失に備えているのです。
現物株式も資産評価される仕組み
すでに保有している現物株式があれば、その株価評価額も証拠金にカウントできる場合があります。
たとえば、評価額100万円の株式を持っていれば、その分だけ余力が増える可能性があるのです。
ただし、持っている株式の価格が下がると証拠金評価も下がり、「追証(おいしょう)」を求められるケースがあります。
追証とは、「証拠金が足りないので、追加でお金を入れてください」という通知のこと。
追証を解消しないと強制的にポジションを決済されるリスクがあるため、注意が必要です。
証拠金維持率と追証(おいしょう)のリスク
証拠金維持率は、「今の空売りや信用買いなどに対して、証拠金がどれだけ足りているか」を示す割合のことです。
たとえば、証券会社によっては「証拠金維持率が30%を下回ると追証が発生する」というルールを設けています。
相場の急落や急騰で証拠金維持率が基準を割ってしまうと、追加で入金しなければならなくなります。
日々の相場変動に合わせて資金管理をしておくことが大切です。
逆日歩(ぎゃくひぶ)とは?
空売りにはもうひとつ覚えておきたいコストがあります。
それが「逆日歩(ぎゃくひぶ)」と呼ばれる仕組みです。
これは、株式を借りるための需給バランスが崩れたときに発生する追加費用で、空売りが人気な銘柄ほどかかりやすい傾向があります。
逆日歩の基本的な仕組み
証券会社は、空売りをする人の代わりに、他の投資家や機関から株式を借りてきます。
ところが、空売りが集中して借りたい人が多くなると、貸せる株が足りなくなってしまうことがあります。
すると、通常の貸株料より高いコストがかかり、その分が逆日歩という形で空売りをしている投資家に課されるのです。
たとえば、人気の高い銘柄や流通株数が少ない銘柄などでは、空売りが集中して貸せる株が不足しやすいため、逆日歩が高額になる可能性があります。
逆日歩が発生するケース
決算発表や増資の情報が出て「下がるかも」と思われる銘柄に空売りが集中すると、一気に借り手が増えて貸し手が不足し、逆日歩が高騰する場合があります。
また、株主優待の権利取りシーズン前後も需給が急激に変化しやすく、逆日歩がつきやすい時期と言われることもあります。
逆日歩が大きくなると、せっかく空売りで得た利益がコストに食われてしまう可能性もあるので、事前に貸借倍率(たいしゃくばいりつ)や信用残(しんようざん)などをチェックしておくと安心です。
貸借倍率とは、信用取引の「売り残」と「買い残」のバランスを示す指標のこと。
空売りが多いほど貸借倍率が低くなり、逆日歩が発生しやすくなります。
また、信用残とは、投資家が信用取引で買っている株数や売っている株数をまとめたものを指します。
売り残・買い残が確認でき、売り残が極端に多い銘柄は、みんなが空売りしている状態と考えられます。
逆日歩への注意点
逆日歩は、日々の需給によって変化するため、正確な金額を事前に読むのはなかなか難しいです。
空売りをする期間が長引くほど、逆日歩のコストもかさむ可能性があります。
そのため、短めの期間で売買を完結させたり、逆日歩リスクが低い銘柄を選んだりするのもひとつの方法です。
貸借倍率や過去の逆日歩履歴を確認しながら、余裕をもった取引を心がけましょう。
まとめ
はじめて空売りをする方は、少額からスタートして仕組みに慣れるのがおすすめです。
株価が下がる局面でも収益チャンスを得たい、あるいは保有株の値下がりリスクを抑えたいという場合に、空売りは強い味方となってくれます。
ただし、相場が思わぬ方向に動いて損失が膨らむリスクもあります。
余裕のある資金管理と、日々の情報収集をしっかり行って、空売りを活用してみましょう。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。