今回は、2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・R・クルーグマンを取り上げます。
ニューヨーク市立大学大学院センター教授を務めるアメリカの経済学者で、ニューヨーク・タイムズのコラムを担当するなどジャーナリストとしての活動でも知られています。
ジョン・F・ナッシュ・ジュニア(1994年)【ノーベル経済学賞】
ポール・R・クルーグマン
1953年にニューヨーク州でロシア系移民の子孫として生まれたクルーグマンは、大のSFファンとして育ちました。
アイザック・アシモフ著「銀河帝国の興亡」に登場する心理歴史学者ハリ・セルダンへの憧れが、経済学の道に進むきっかけになったと語っています。
1974年(21歳)にアメリカのイェール大学を卒業し、1977年(24歳)にマサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得しました。
その後MITの准教授に就任し、当時のレーガン政権において大統領経済諮問委員会委員を務め、IMFや世界銀行のエコノミストとしても活躍しました。
さらにスタンフォード大学やプリンストン大学など名門大学の教授も歴任するなど、輝かしい経歴を誇ります。
2015年(41歳)からニューヨーク市立大学大学院センター教授を務めており、2000年(47歳)からはニューヨーク・タイムズのコラムも担当しています。
「貿易パターンと経済活動の立地の分析」でノーベル賞
クルーグマンは2008年(55歳)、「貿易パターンと経済活動の立地に関する分析」によりノーベル経済学賞を受賞しました。
グローバリゼーションと自由貿易の影響を明らかにし、世界的な都市化の進展を説明する新たな理論を提唱したことが評価されたのです。
それまでの貿易理論は、おもにデヴィット・リカードによる比較優位論にもとづいていました。
これは貿易をする各国において、地理や資源面などの差があるため、得意なものに特化して交換するという考え方です。
たとえば美味しいリンゴを生産できる国は、たくさんリンゴを輸出し、美味しい魚がとれる島国から魚を輸入する、といった具合ですね。
しかし実際には、日本もアメリカも自動車を作って輸出入しあっているように、自分の国でも作れるものも輸入している場合が少なくありません。
特にコンピューターといったような産業製品は、国によって地理や資源といった条件に大きな差がなくとも、同じようなものが作れてしまいます。
クルーグマンはこれをうまく説明して、モデル化したのです。
クルーグマンは、「収穫逓増(しゅうかくていぞう、Increasing returns)」のために貿易が起きると説明しました。
収穫逓増とは、より多く生産するにつれて、それにかかるコストは減少していくという状態を指します。
地理や資源などの条件は同じでも、何かしらの差が収穫逓増によって次第に拡大し、その差が貿易に発展すると考えたのです。
クルーグマンはこれを単純なモデルによって表現することに成功し、新たな貿易理論の道を切り開きました。
まとめ
今回は、現在も大学教授やコラムニストとして活躍を続ける、ポール・R・クルーグマンをご紹介しました。
クルーグマンは、貿易理論に関する研究が評価されて2008年にノーベル経済学賞を受賞しました。
大のSFファンでもあり、「人々を笑わせ考えさせた業績」に与えられるイグ・ノーベル賞の授賞式で、地球全体の輸出入総計の不均衡の原因を「宇宙人」に求めるスピーチをするなど、ユーモアあふれる人物としても知られます。
また日本経済についても、たびたび指摘や提言を行っており注目を集めています。
たとえば1980年代のバブル不況後の日本経済については、金融緩和によって金利が一定水準よりも低下し、伝統的な経済政策の効果が失われてしまう「流動性の罠」に陥っていると指摘しました。
近年においても、政治経済に関する発言を精力的に続けており、ニューヨーク・タイムズに寄稿するコラムがマーケットを動かすといわれるほど、影響力を持つ経済学者となっています。
今回の記事では、代表的なノーベル経済学受賞者をご紹介してきました。
歴代受賞者の経歴や主張からは、当時の時代背景や経済思想のトレンドをうかがい知ることができます。
次々と新たな経済理論が登場することから分かるように、経済とは変化が大きく不安定なものだといえるでしょう。
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