今回は、2001年にノーベル経済学賞を受賞した、ジョセフ・E・スティグリッツを取り上げます。
マクロ経済学や公共経済学を専門に、コロンビア大学教授として活躍するアメリカの経済学者で、「現代の経済学の巨人」として知られています。
慶応義塾大学で客員教授を務めた経歴があるほか、特に安倍政権時代にたびたび日本経済へ提言を行い注目されるなど、日本でも知名度の高い人物といえるでしょう。
ポール・A・サミュエルソン(1970年)【ノーベル経済学賞】
有名大学や世界銀行の重要ポストを歴任
スティグリッツは、1943年にインディアナ州ゲーリーのユダヤ人家庭に生まれました。
全校生徒はわずか1,000人という、男子だけの教養大学であるアマースト大学に進学し、当初は数学と科学への興味を示し物理学を専攻します。
しかし3年目に経済学に専攻を変更し、1964年(21歳)にアマースト大学を卒業しました。
1965年(22歳)にはシカゴ大学で、世界的に活躍した日本人経済学者の宇沢弘文氏から1年間指導を受けています。
その後1966年(23歳)に、名門のマサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得し、 エール大学やプリンストン大学、オックスフォード大学、スタンフォード大学など名だたる有名大学の教授を歴任しました。
さらに1993年(50歳)にアメリカ大統領経済諮問員会のメンバーに選出され、95年(52歳)には委員長に、そして翌96年(53歳)には世界銀行で開発政策を担当する上級副総裁兼チーフエコノミストのポストに就任するなど、輝かしいキャリアを築いたのです。
またスティグリッツの代表的な著書である「スティグリッツ 入門経済学(1999年)」は、第1回記事で取り上げたポール・A・サミュエルソンによる「経済学」以来の教科書の決定版として高く評価されています。
大学で経済学の授業を受けた方は、読んだことがあるかもしれませんね。
「情報の非対称性」でノーベル賞を受賞
スティグリッツは「情報の非対称性」の理論が評価され、2001年にジョージ・アカロフ、マイケル・スペンスとともにノーベル経済学賞を受賞しました。
情報の非対称性とは「市場における各主体が持つ情報が非対称であること」をいいます。
売り手と買い手の間に情報の非対称性があると、経済的な効率性が失われる恐れがあるのです。
自由市場経済が適切に機能するためには、前提として必要な情報が公開され共有されていることが必要です。
しかしスティグリッツは、情報には格差があると指摘しました。
たとえば自動車保険について考えてみましょう。
自動車保険に加入している人は、自分の運転スキルがどの程度か、だいたい理解しています。
しかし保険会社側は、保険加入者の運転スキルや事故歴などが分かりません。
そこでスティグリッツが提案したのが「スクリーニング」という方法です。
これは情報を持っていない人が、情報をたくさん持っている人に対し、いくつかの案を示し、その選択を通じて情報を開示させるというものです。
たとえば自動車保険会社が、走行距離に応じた割引保険を複数用意し、加入者にどの保険を選ぶか選択させるといったことが挙げられます。
これによって保険会社は、保険加入者の自動車の利用頻度を把握できるというわけです。
ジョン・F・ナッシュ・ジュニア(1994年)【ノーベル経済学賞】
まとめ
今回は、2001年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの経済学者、ジョセフ・E・スティグリッツをご紹介しました。
スティグリッツは、経済分野で多くの業績を残し「情報の非対称性」の研究が評価されてノーベル賞を受賞しています。
スティグリッツはその業績から「トロフィー・プロフェッサー」として高く評価され、数々の名門大学が多額の報酬を提示して、スティグリッツを獲得するため競い合いました。
プリンストン大学やオクスフォード大学など有名大学の教授を歴任したほか、クリントン元大統領の経済諮問委員会委員長や、世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストなども務め、世界経済の政策運営にも関わりました。
またスティグリッツはこれまで、たびたび来日して日本経済に対する提言を行ってきたことでも知られています。
特に安倍政権時代には、当時の安倍総理大臣と会談し、消費税増税の見送りや財政拡大などを進言しました。
近年においても、スティグリッツは世界経済に関して精力的に予測や分析を行っており、その発言や動向は国内外で注目されています。