ジョン・F・ナッシュ・ジュニアとは?1994年ノーベル経済学賞受賞者とその理論

今回は、1994年にノーベル経済学賞を受賞したジョン・F・ナッシュ・ジュニアを取り上げます。

ナッシュは2001年の映画「ビューティフル・マインド」でラッセルクロウが演じた、天才数理経済学者のモデルとなっています。

この映画は2001年度のアカデミー賞で、監督賞や作品賞などの主要4部門を受賞し、日本でも話題となったため、観たことがある方も多いかもしれませんね。

作品では、若くして統合失調症を患い、30年後に回復するまでのナッシュの姿が描かれています。

ミルトン・フリードマン(1976年)【ノーベル経済学賞】

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数学の天才ナッシュ

1928年にアメリカのウェスト・バージニア州の小さな田舎町、ブルーフィールドで生まれたナッシュは、子供時代からその優秀さを発揮しました。

理工系の名門大学、カーネギー・メロン大学の前身であるカーネギー工科大学をわずか20歳で卒業し、数学の学士号と科学の修士号を取得しました。

その後ナッシュは、ニュージャージー州の名門大学、プリンストン大学の博士課程に進みます。

プリンストン大学に送られた、ナッシュの指導教官が書いた推薦状には、一言「この男は数学の天才である」と書いた推薦状が書かれていたとされています。

このプリンストン大学は、フォン・ノイマンらが在籍する「ゲーム理論」の中心地で、特に数学科は全米屈指のレベルの高さを誇っていました。

1948年(20歳)にナッシュがプリンストンへ来た時には、伝説的な物理学者アインシュタインも研究所に所属しており、交流を持つ機会にも恵まれました。

ゲーム理論に没頭し、数学のエリートとして活躍していたナッシュですが、30歳のころに精神状態が悪化し、統合失調症の症状が深刻なものとなっていきました。

しかし妻の献身的な支えもあって研究を続け、1994年(66歳)に「非協力ゲームの理論における均衡の先駆的な分析」でノーベル経済学賞を受賞しました。

その後2015年(87歳)に、ノルウェー政府がもうけた数学の研究実績を評価する賞「アーベル賞」の授賞式に出席するため、ナッシュ夫妻はオスロを訪れました。

授賞式の後、アメリカに帰国した帰り道で交通事故に遭い、夫妻はこの世を去ることとなりました。

世界的に知られる数学者の不慮の事故は、多くの人に衝撃を与えました。

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ナッシュが構築した「ナッシュ均衡」とは

ナッシュが没頭していたゲーム理論とは、利害の一致しない複数の主体を、ゲームのプレイヤーになぞらえ、その意思決定の過程を分析する学問です。

1940年代にアメリカの数学者、フォン・ノイマンが提唱したのが始まりとされています。

現代においても、ゲーム理論は経営の重要な意思決定や、マーケティング戦略に活用されており、欧米ではMBA取得のための必須科目となっているほどです。

経済以外にも、政治や軍事問題の解決のために活用されることもあります。

ゲーム理論についてはさまざまな研究が行われ、「囚人のジレンマ」や「パレート最適」などのモデルが知られています。

そのなかで、ナッシュが構築したゲーム理論は「ナッシュ均衡」として知られています。

ナッシュ均衡とは、すべてのプレイヤーが、一定のルールのもとで自分の利得が最大となる最適な戦略を選択しあっている状態をいいます。

ここで重要なのは「最適な」戦略であって、必ずしも「最善な」戦略ではないということです。

たとえば災害時などに日本でもたびたび問題となる「買い占め」について考えてみましょう。

トイレットペーパーやマスクなどが品薄になると、多くの人が買い占めに走り、必要な人に行き渡らなくなるという現象を目撃した人も多いのではないでしょうか。

ほかの人たちがみな買いに走っているときに、自分だけ買わないのは「必要な時に商品が買えない」という、自分にとって最悪な状況となります。

そのため自分もほかの人と同じように「急いで買う」が最適な行動と成り得るわけです。

このようにナッシュ均衡とは「自分だけが行動を変えると損してしまうので、自分は行動を変えないほうがいい」というものです。

いわば硬直状態ともいえるでしょう。

しかしこれでは、買い占めがなくならず困る人も多く出てしまいますので、「最善」な行動とは言えません。

そこでナッシュ均衡を打破し、最善な方法を考える必要があるのです。

たとえばあらかじめ必要な量をストックしておいたり、日頃からなるべくトイレットペーパーやマスクの消費量を減らせるような生活習慣を身に着けるなどの方法が考えられます。

このように物事を捉え方を変え、より良い行動を取るために、ナッシュ均衡の考え方が役に立つのです。

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まとめ

若いころから数学の天才と呼ばれたナッシュは、ゲーム理論の発展に大きく貢献し、20世紀有数の数学者として広く知られました。

統合失調症を患いながらも、献身的な妻の支えを受け、研究を長く続けたナッシュの姿は、映画「ビューティフル・マインド」で描かれ、作品はアカデミー賞を受賞するなど高く評価されました。

ナッシュが構築したゲーム理論「ナッシュ均衡」は、政治経済をはじめ、仕事や暮らしまで幅広い場面で役立つ戦略的な考え方として、広く普及しています。

ビジネスに関わる人はもちろん、そうでない人もぜひ知っておきたい概念といえるでしょう。

ポール・A・サミュエルソン(1970年)【ノーベル経済学賞】

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この記事の監修者

監修者プロフィール

トレード歴40年の株職人。“株匠” を目指している。
20歳で株の売買を始めてから20年間、
「日本郵船」1銘柄のみの「売り」「買い」に集中、大きな利益を重ねる。
その後、宮本武蔵が洞窟に籠もるかの如く、チャートと建玉の研究に没頭する。

現在も、チャートと建玉の操作のトレード手法をさらに極めるべく精進を重ねており、
日本株、米国株、イタリア指数、イギリス指数、ユーロ指数、金、原油、コーン、FXなど、
どの市場でも大きな利益を生み出している。

ラジオNIKKEI「相場師朗の株は技術だ!」でキャスターを務める。
東京証券取引所北浜投資塾講師、日本経済新聞社お金の学校講師。

この記事を書いた人

著者プロフィール
根本 卓(株塾・インテク運営責任者)
1年間勉強・練習後に2013年から株式投資を運用資金30万円から開始。

地道に続け、7年後に月500万円の利益を出せるように。

その経験を活かし、株塾サービスに反映・インテク記事を書いています。

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