株式会社の経営に革新をもたらす「種類株式」。
通常の株式とは一味違う特別な権利や条件を持つ
この仕組みは、スタートアップから大企業まで、様々な場面で活用されています。
資金調達の柔軟性を高め、経営権を守りながら成長を実現する、そんな種類株式の概要、メリット・デメリットから具体的な発行手続きまで、詳しく解説します。
種類株式とは
種類株式とは、通常の株式とは異なる特別な権利や条件を持つ株式のことです。
会社法では7種類が定められており、例えば配当を優先的に受け取れる「優先株」や、議決権が制限された「無議決権株」などがあります。
企業は資金調達や経営権の調整を目的に種類株式を発行し、投資家のニーズに応じた柔軟な資本構成を実現できます。
特にスタートアップやM&Aの場面で活用されることが多く、株主と企業の双方にとって有益な手段となります。
種類株式の種類
種類株式には7つの主要なタイプがあり、それぞれが異なる権利や制限を持ち、企業の様々なニーズに対応しています。以下、各種類株式の特徴と活用方法について詳しく解説します。
拒否権付種類株式
拒否権付種類株式とは、特定の重要な経営判断について株主が拒否権を持つ種類株式です。
例えば、会社の合併や事業譲渡などの重要事項を決定する際、通常の株主総会で承認されても、この株式を持つ株主が反対すれば実行できません。
主に創業者や投資家が経営の主導権を守るために活用し、意図しない買収や経営方針の変更を防ぐ手段となります。
特にスタートアップ企業のファウンダーが経営権を守るために活用するケースが増加しており、特にユニコーン企業の資金調達において話題となっています。
取得条項付種類株式
取得条項付種類株式とは、会社があらかじめ定めた条件で株式を買い取ることができる種類株式です。
例えば、一定の期間が経過した場合や特定の事象が発生した際に、会社が株主から株式を取得できます。
これにより、企業は資本政策を柔軟に管理でき、投資家に対しても出口戦略を明確に示せるメリットがあります。
特に、M&Aや企業再編の場面で活用され、大型の企業買収案件などで度々ニュースとなっています。
譲渡制限付種類株式
譲渡制限付種類株式とは、会社の許可がないと自由に売買できない種類株式です。
これにより、特定の株主以外への株式の流出を防ぎ、会社の経営権を安定させることができます。
特に、創業者や経営陣が株式を維持したい場合や、特定の投資家グループの間でのみ株式を取引させたい場合に活用されます。
スタートアップや非上場企業で使われることが多く、敵対的買収のリスクを抑える手段としても有効な株式の一種です。
配当優先株式
配当優先株式とは、通常の株式よりも優先的に配当を受け取る権利を持つ種類株式です。
会社が利益を配分する際、まず配当優先株式の株主に一定の配当が支払われ、その後に他の株主へ配当が分配されます。
ただし、多くの場合、議決権が制限されることがあり、経営への関与が限定される点が特徴です。
主に安定した配当を求める投資家向けに発行され、企業にとっては資金調達をしやすくする手段として活用されることが多い株式です。
議決権制限株式
議決権制限株式とは、株主総会での議決権が制限される株式の種類です。
一部の重要な議案にのみ議決権が認められる場合や、まったく議決権を持たないケースもあります。
企業はこの株式を活用することで、資金調達をしながら経営権を維持しやすくなります。
特に、投資家に安定した配当を提供する一方で、経営方針の決定権を創業者や主要株主に集中させる目的で発行されることが多い株式の一種です。
上場企業による導入事例が増えており、経営の安定性を保ちながら資金調達を行う手段として注目されています。
残余財産分配優先株式
残余財産分配優先株式とは、会社が解散した際に、他の株主よりも優先して残った財産を受け取る権利を持つ種類株式です。
通常の株主よりも優先的に分配を受けられるため、投資家にとってリスクを軽減するメリットがあります。
ただし、議決権が制限される場合もあり、経営への関与が制限されることがあります。
特に、ベンチャー企業の資金調達や投資家の保護を目的として発行されることが多く、事業の安定性を重視する投資家に適した株式です。
種類変更可能株式
種類変更可能株式とは、一定の条件を満たすと他の種類株式に変更できる権利を持つ種類株式です。
例えば、優先株式から普通株式へ変更することで、配当の優先権を放棄する代わりに議決権を得るといった使い方が可能です。
企業は資本政策を柔軟に調整でき、投資家も状況に応じた株式の選択ができます。
特に、スタートアップの資金調達やM&Aの場面で活用されることが多く、企業と投資家双方にとってメリットのある仕組みとなっています。
種類株式のメリット
種類株式には、以下に説明する3つの主要なメリットがあり、企業の成長戦略や資本政策に大きく貢献します。
資金調達がしやすくなる
種類株式を活用すると、企業は投資家のニーズに応じた株式を発行できるため、資金調達がしやすくなります。
例えば、配当優先株式を発行すれば、安定した配当を求める投資家を引きつけられます。また、議決権を制限した株式を発行すれば、経営権を守りながら資金調達が可能です。
特にスタートアップや非上場企業では、投資家ごとに異なる条件を設定できるため、柔軟な資本政策を実現し、成長に必要な資金をスムーズに確保しやすくなります。
経営権を守りやすい
種類株式を活用すると、企業は外部からの資金調達を行いながらも、経営権を守りやすくなります。
例えば、議決権制限株式を発行すれば、投資家に配当などの利益を提供しつつ、経営の意思決定は創業者や主要株主が維持できます。
また、拒否権付種類株式を使えば、重要な経営判断に対して特定の株主が拒否権を持ち、不本意な買収や経営方針の変更を防ぐことが可能です。
目的に応じて使い分けられる
種類株式は、企業の目的に応じて柔軟に使い分けることができます。
例えば、資金調達を優先するなら「配当優先株式」、経営権を守るなら「議決権制限株式」や「拒否権付種類株式」が有効です。
また、M&Aや投資家の出口戦略を考慮する場合は「取得条項付種類株式」や「種類変更可能株式」が役立ちます。
このように、企業の成長段階や経営方針に合わせて適切な種類株式を活用することで、より戦略的な資本政策を実現できます。
種類株式のデメリット
種類株式には以下の3つの主要なデメリットがあり、導入を検討する際は慎重な判断が必要です。
手続きが複雑でコストがかかる
種類株式を発行するには、定款変更や株主総会の決議が必要となり、通常の株式よりも手続きが複雑です。
さらに、株式の設計や発行に関して専門的な知識が求められるため、弁護士や公認会計士への相談が必要になり、その分コストも発生します。
また、管理や運用のための追加の手間もかかるため、企業にとっては負担が大きくなる可能性があります。
そのため、種類株式の導入は慎重に検討する必要があります。
管理が難しくなる
種類株式は、普通株式と異なり、配当や議決権の条件が種類ごとに異なるため、管理が複雑になります。
例えば、配当優先株式の株主には決められた割合の配当を支払う必要があり、議決権制限株式や拒否権付種類株式の扱いも正確に把握しなければなりません。
これにより、企業の株式管理や会計処理の負担が増大し、ミスが発生するとトラブルの原因になる可能性があります。そのため、慎重な運用と専門的な管理体制が求められます。
株主間のトラブルの原因になる可能性
種類株式は、株主ごとに異なる権利を持たせるため、不公平感が生まれやすく、トラブルの原因になることがあります。
例えば、配当優先株式を持つ株主は安定した利益を求める一方、普通株式の株主は成長重視の経営を期待することがあり、意見が対立することがあります。
また、拒否権付種類株式を持つ株主が経営判断を阻止すると、意思決定が遅れるリスクもあります。こうした対立を防ぐには、事前のルール設定や株主間の合意形成が重要になります。
種類株式を発行する際に必要な手続き
種類株式の発行には複数の重要な手続きが必要となり、それぞれの段階で慎重な対応が求められます。以下、主要な手続きについて詳しく解説します。
定款の変更
種類株式を発行するには、会社の基本ルールを定めた「定款」を変更する必要があります。
定款には、発行する種類株式の内容や株主の権利などを明記しなければなりません。
変更には株主総会で特別決議(通常は出席株主の3分の2以上の賛成)が必要となり、手続きには時間とコストがかかります。
また、法務局への登記申請も必要です。適切な内容を定めないと、後に株主間のトラブルにつながる可能性があるため、慎重な検討が求められます。
株主総会での承認
種類株式を発行するには、株主総会での承認が必要です。
特に、新たに種類株式を導入する場合や既存の種類株式の内容を変更する場合は、定款変更が必要となり、特別決議が求められます。
特別決議は、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要となるため、事前の株主との調整が重要です。
株主間で意見が分かれると承認が得られず、計画通りに発行できないこともあります。
そのため、十分な説明と合意形成が欠かせません。
登記手続き
種類株式を発行する際は、法務局での登記手続きが必要です。
具体的には、定款変更や株主総会の特別決議を経た後、会社の登記事項に新たな種類株式の内容を追加します。
登記申請には、定款の変更内容を記した書類や株主総会の議事録、登記申請書などが必要となります。
手続きに不備があると法務局に受理されず、発行が遅れる可能性があるため、専門家のサポートを受けることが一般的です。
適切な登記を行うことで、法的に有効な種類株式として認められます。
種類株式の発行
種類株式の発行は、定款変更や株主総会の承認、登記手続きを完了した後に行われます。
企業は発行する種類株式の条件(配当、議決権の有無など)を明確に定め、投資家との契約を締結します。
発行方法には、公募や特定の投資家への第三者割当などがあり、目的に応じた手法が選ばれます。
発行後は、株主名簿へ登録し、権利関係を正確に管理する必要があります。
適切に発行することで、企業は資金調達や経営戦略の柔軟性を高めることができます。
株主名簿の管理
種類株式を発行した後は、株主名簿を適切に管理する必要があります。
株主名簿には、株主の氏名、住所、保有株式の種類や数、取得日などを記載し、正確な情報を維持することが求められます。
種類株式は普通株式と異なり、配当や議決権などの条件が異なるため、誤った管理をすると配当計算のミスや株主権利の誤適用につながるリスクがあります。
まとめ
種類株式は、企業の資金調達や経営権の調整に活用できる重要なツールです。
優先株式、拒否権付株式、取得条項付株式など、様々な種類があり、それぞれの特徴を活かして企業のニーズに応じた柔軟な資本政策を実現できます。
一方で、発行には定款変更や株主総会での承認、登記手続きなど、複雑な手続きが必要となり、発行後の管理も慎重に行う必要があります。
また、株主間のトラブルを防ぐため、事前の十分な検討とルール設定が重要です。
種類株式の導入を検討する際は、メリット・デメリットを十分に理解し、専門家のアドバイスを受けながら、企業の成長戦略に合わせた最適な選択をすることが大切です。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。