個別株で勝ち続けられる人はいない。現役ファンドマネージャーが語る投資のリアル

小松原周氏

「数百億円稼ぐ人を見て、自分もそうなれるとは思わない方が良い」

−厳しくも現実的なアドバイスをするのは、“不敗”の異名を持つ現役ファンドマネージャー・小松原周(あまね)さんです。

投資の幻想を捨て、現実を直視したときに見えてくる、シンプルかつ確実な資産形成の方法を紐解きます。

小松原周氏小松原周氏

プロフィール
大手資産運用会社にてファンドマネージャー・アナリストを務める。徹底した企業リサーチと業績予想をもとに投資を行うファンダメンタリストであり、長いキャリアの中で大きく負けたことがないため「不敗の投資家」として知られる。これまでに日米通算で5000社以上の会社へ取材した経験を持つ。さまざまな業種業界に精通しており、経営戦略からコーポレートファイナンス、経済学、財務分析等の知識が豊富であることから、上場企業の経営者の間でも氏との面談は評価が高い。巨大ファンドを運用する現役のファンドマネージャーであり、株式市場への影響力が大きいため、氏名以外の個人情報は基本的に非公開としている。片山晃(五月)氏との共著に『改訂版 勝つ投資 負けない投資』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

目次

投資の鉄則は「自分で考えて自分で結論を出す」こと

−まずは簡単に自己紹介をお願いします。

小松原 大手資産運用会社でファンドマネージャーをしています。グロース株のキャリアが長い機関投資家です。投資歴は長く、ベテランの域と言えると思います。

登山

−投資初心者に向けてアドバイスをするとしたら、最初に何と伝えますか。

小松原 ネット上のメディアなどに書かれている情報は信じない方が良いということです。「自分で考えて自分で結論を出す」という癖をつけないと、投資は上手くいかないと考えています。例えば登山に例えると、自分で歩いて登るのと、途中までロープウェイに乗って登るのとでは得られるスキルが全く違いますよね。他人の情報に頼ると、ロープウェイに乗って6号目まで来た気分になってしまうんです。自分の力で投資をするという意識が大事だと思います。

−どのような情報を見て考えていくと良いでしょうか。

小松原 意外に、企業が開示している情報をしっかり見ていない人が多いと思います。まずは企業が開示している情報を見ないことには、スタートラインに立てないと思います。

−自分の生活に身近な、関心を持って開示情報を見られる企業に投資するのが良いでしょうか。

小松原 最初はそれで良いと思います。例えばよく行くスーパーの投資から始めて、必ず失敗する時があると思います。でも失敗はむしろチャンスであり、失敗の原因や損失の理由を突き詰めて考えることが重要です。原因を自分なりに突き詰めていくことが一番の成果に繋がるので、自分の頭で判断し、検証し、学んでいくことを繰り返すのが資産を増やす最短距離だと思います。

−短期・中長期はどちらがおすすめでしょうか。

小松原 基本的に私は長期で見ています。失敗から学ぶことが重要だとお伝えしましたが、短期、例えば1週間で失敗したとしても、それは株のボラティリティの範囲なので、学ぶことがありません。意味のある失敗をするという意味でも、最低限、1年くらいは投資をするつもりで株を買うのが良いと思います。四半期ごとに開示がありますから、それを見ながら、1年経った時に負けていれば、なぜ負けたのかを考えるのが良いと思います。

−日本株・米国株のおすすめはありますか。

小松原 英語で開示情報を読むというのはハードルが高いと思うので、個別株は日本株です。ただアメリカのインデックス株を持つのは良いと思います。

−日本株で言うと、今後日本の人口が減少し、企業が成長していかないのではないかという懸念を持つ人もいると思うのですが、どのように捉えていますか。

小松原 その通りだと思います。この国自体は基本的にはもう縮小をしていく方向にあると思うので、資産運用という意味では幅広く、海外の株もインデックスで持つのが良いと思います。ポートフォリオはオルカン(オール・カントリー)と同じ発想で、時価総額の割合が高い国を多く保有するという形で良いと思います。王道すぎると思うかもしれませんが、個別株で頑張ろうとしても労力とリターンが見合わないと思います。

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軸があると、情報整理がスムーズかつスピーディに

分析

−投資の軸を見つけるためにはどうしたら良いでしょうか。小松原さんはどんな軸を持って投資を行っていますか。

小松原 失敗しながら見つけていくというのが一番良い方法だと思います。私が失敗しながら学んで集約していったやり方は、収益性が上がっていく銘柄に投資をしていくということです。営業利益率が上がっていく会社を見つけていく。ここに論点を絞ると、開示資料を分析する時も必要な情報といらない情報を分け、情報の整理整頓がスムーズになります。そうすると情報の処理が速くなるというメリットもあります。
収益性が上がっていく会社はどんな会社かと言うと、色々なパターンがあって、売上のトップラインが伸びることで収益性が上がるパターンもあるし、収益性の高い製品の割合が増えることで収益性が上がるパターンもあるし、リストラをしてコストが下がることで収益性が上がることもあります。収益性が上がることが、企業価値上昇に一番ダイレクトに繋がるKPIだと思うのでそこにフォーカスをしています。

−厳しい世界で生き残り続けられている要因は何だと思われますか。

小松原 収益性が上がるかどうかに論点を絞っていることで、情報処理が早くスッキリしているというのがあると思います。軸がブレず、顧客と話すときも収益性が上がるかどうかという論点しか話しません。それ以外の自分にとって意味のない情報は捨てられるから、生き残れているんだと思います。

−情報に惑わされないためにはどうしたら良いでしょうか。

小松原 他人の情報に引っ張られてしまう気持ちはよく分かります。ブルームバーグで流れてくる赤く点滅するヘッドラインを見て「どうしよう」と思ったり、トランプ大統領の発言で相場が揺れ動くと動揺したりしますよね。でも心にブレーキをかけて、自分は会社の収益性が上がるか下がるかだけを見なくちゃいけない、と立ち戻ります。そこは情報の取捨選択も大事ですし、個別株を持っている限り悩みは消えないので、インデックスに変えるのが良いと思います。
私は夜眠れないのは職業病だと思っていますし、その精神的なコストも含めた給料だと思っています。個別株をやるにあたっては、お金だけでなく、精神的コストもかかるというのは覚悟した方が良いと思います。

−他に個人投資家が気をつけるべきことはありますか。

小松原 たくさんありますが、よくお伝えしているのは、過去20年間で、TOPIX(配当込み)で+3%以上勝てている人が何人いると思いますか?ということです。1つの株で3%なんて、余裕で勝てると思いますよね。でも答えはゼロです。この世に1人もいません。
500億円以上の規模を持っているファンドでも、1つもないんです。もちろんそこで働くファンドマネージャーは優秀で、経験もあって、生き残ってきた人たちばかりです。それでもTOPIX+3%のリターンを出すことは出来ないんです。個別株はそのくらい難しいのだということをお伝えできる重要な戒めだと思います。

−投資で成果を出せる人と出せない人の違いは何だと思われますか。

小松原 変な欲や憧れを持っているうちは勝てないんじゃないかなと思います。年率3%ですら勝つことが出来ないものだと肝に銘じて、身の程を知るスタンスで臨むのが大切だと思います。時に資産を100億円以上にしたという人がいますが、それはごくごく一部で、だからこそ有名なわけで、自分もそうなれるとは思わない方が良いと思います。

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IT革命の時代の真っ只中にいるという意識を持つ

−今注目している業界はありますか。

小松原 今の世の中がIT革命の末端の中にいて、もし100年後の教科書を見たら、今の時代は産業革命に次ぐIT革命の時代だと書かれているはずです。歴史的に俯瞰すると、とてつもない変化の中にいるという意識は結構大事かなと思います。

−株をやるにあたって、何年先を見据えていらっしゃるものなのでしょうか。

小松原 3年くらいのスパンで見ています。3年後に収益が上がるかどうか。そのくらいまでしか想像が及ばないと思っているので。ただ資産形成という観点で言えば、もっと長い目線で、長期的に投資をしておくのが良いと思います。

AI

−プロとして今の市場と向き合っていてどんなことを感じていますか。

小松原 AIの普及とともに、情報がくまなく、そして素早く株式市場に織り込まれるようになったなと感じています。今まではよく調べるとみんなが気づいていない情報というのがあったものですが、そういうことが減っていって、かなり厳しいなと感じています。だからこそ、個人投資家が個別株で頑張ろうとするのは割に合わないと思います。

−小松原さんは小説家としても活動されていますよね。

小松原 クリエイティブな活動をすることが、自分のバランスを取るためにも必要なんです。仕事で溜まったストレスやプレッシャーを解放させることができる場になっています。現在Amazonで販売している『Truth』は100年後の未来を舞台にした物語で、投資家としての知識も織り込まれているので、現実世界の延長線上の話として読めると思います。レビューの評価も4.8と高くて、Amazon最低価格の99円で販売しているので、読んで後悔することはないと思います。ぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

−個人投資家へのメッセージをお願いします。

小松原 株というのは上手くいった時は特に夢を持ってしまうと思うのですが、それは幻想だと自分を戒めた方が、結局は自分のためになると思います。とても地味な話だと思うかもしれませんが、コツコツと日々のキャッシュフローの余った部分を、分散して投資していくというのが一番近道かつ、一番イージーだと思います。

小松原周氏の書籍

片山晃氏との共著。出版から1年以上経った今も、Amazonの投資カテゴリーでベストセラーを記録し続けている。

小松原周氏の著書「勝つ投資 負けない投資」はコチラ

小松原周氏の小説

小松原氏が手掛けた小説。緻密なプロットと飽きさせない展開に、編集部内でも「一気に読んでしまった」「世界観と設定に引き込まれる」と話題に。

小松原周氏の著書「Truth」はコチラ

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