米国株はAppleやAmazonのように生活に身近な存在ですが、その株価を大きく動かすのは「政治」です。
金融工学MBAを持ち、金融機関や政治の世界でも経験を積んだ岸泰裕さんは、トランプ政権の製造業復活政策と米国株の関連に着目。
現場で支持される消費財企業や公共政策の行方を投資判断に組み込むことで、着実な成果を上げています。
「オルカンやS&P500を買っておけば安心」とは一線を画す、米国株投資の本質を語っていただきました。
岸泰裕氏
プロフィール
金融工学MBA取得の金融・財務のプロフェッショナル。1985年、滋賀県出身。明治大学商学部卒業後、Citiグループの日本における持株会社である日興シティホールディングスに勤務しつつ早稲田大学にて金融工学MBAを取得。その後、SMBC日興証券・スタンダードチャータード銀行東京支店を経て、参議院議員事務所など政治業界にも関わる。東証プライム上場の大手通信会社の財務部資金課長やソニーグループ子会社にて上場準備業務を担当。現在もコンサルティング会社にて財務や上場準備を行っている。明治大学などで「投資・運用」「サステナビリティ」などについて講義を行っている。著者に『新NISAではじめる 米国株投資』(成美堂出版)等がある。
Mac、iPhone、Amazon…実は生活に身近なアメリカ企業
−まずは簡単に自己紹介をお願いします。
岸 大学卒業後、金融機関で経理や財務の仕事をしていました。その後にご縁があり政治業界に行き、自民党で立候補したり、日本医師会系の参議院議員の秘書を務めたりしていました。その後は通信会社の財務や上場準備の仕事をしたのち、現在はコンサルティング会社で財務や上場準備をしています。また大学で金融リテラシー、サステナビリティやESGについて教えています。
−投資を始めたのはいつ頃でしょうか。
岸 金融機関を退職したのち、2013年くらいから始めました。当初は日本株や暗号資産を中心に、キャピタルゲインを狙った短期売買をしていました。ただ最近は中長期でアメリカ株をメインにしています。
−変わったきっかけは何でしたか。
岸 最初は証券会社に勤めた経験を活かして、トレーダーのような動きをしたいと思っていたんです。でもアベノミクス以降、日本もアメリカも政策がわかりやすくなってきているので、中長期がやりやすいマーケットになっていると感じています。あえて今短期売買でハイリスク・ハイリターンをやらなくても、中長期でミドルリスク・ミドルリターンを取りに行くのがやりやすいマーケットだと思っています。
−米国株、アメリカの株は自分には難しい・よく分からないと思う初心者も多いかと思います。
岸 恐らく皆さん、仕事ではWindowsかMacのパソコンを使っていて、スマホもiPhoneかAndroidで、日常的にAmazonで買い物をして、Netflixで映画を見ていると思います。アメリカの特に時価総額が上位層の会社というのは、実は我々の生活の身近なところに存在しています。米国株の企業はイメージしやすく身近だと思います。むしろ日本株上位のトヨタ、三菱UFJ、ソニーグループ等は会社名は知っていても身近にある人とない人の差が激しいのではないでしょうか。
−銘柄を選ぶポイントはありますか。
岸 やっぱり政策・政治は見ておく必要があるかなと思います。例えば私は今、マールボロで有名なタバコ企業のアルトリアグループの株を購入しています。なぜなら、トランプ政権はアメリカの製造業を復活させようとしているからです。現場で働く人々が休憩時間に手に取る商品、例えばタバコや飲料など、嗜好性が高く愛用者が継続的に購入する商品は、その企業の株価を押し上げる要因になります。アルトリアグループの株価は上がり続けていますが、それでも現在でも高配当株で、6〜7%もの配当利回りがあり値上がりも利回りも取ることができます。これは政権の動き、政治の動きと連動していると思います。
−現在のポートフォリオについて教えてください。
岸 6割が米国株で、銘柄は大きく3銘柄です。細かく持っているものもありますが、大枠はアルトリアグループ、積水ハウス、日産自動車の3社です。積水ハウスは日本企業ですがアメリカでもトップシェア5位を誇っており、アメリカでの市場拡大を予測したものです。アメリカ株という側面もあり、持っています。
−日産自動車株を持っているのはなぜでしょうか。
岸 日産は赤字でダメだと言う人も多いですが、日本として日産自動車を潰すわけにいかないと思います。また日産自動車は前期末の3月末の決算発表で予測した第1四半期の営業利益の赤字数字より、実際の数字は上振れしています。つまりコスト削減が上手くいっているわけです。でも通年赤字だからといって「日産自動車はダメだ」と言う人が多い。数字ではなく増減幅を見るのが本当は重要なのに、数字しか見ていない人が多いと思います。
オルカンやS&P500を買っておけば安心、は危険?!
−投資初心者が最初にやるべきことは何でしょうか。
岸 まずはお金を貯めることです。100万円くらいを投資に回せるようになるまでは、貯金だったり、年収を増やす方法を考えた方が良いと思います。その上で、その100万円を老後の準備に使いたいのであれば高配当株に投資をしていくべきでしょうし、10倍20倍にしたいのであれば信用取引やFX、暗号資産をやるべきです。
また、投資を始めるにあたって、いくら欲しいのかをある程度明確にするべきかと思います。お金は正直あるに越したことはないし、1000万円より1億、10億、100億とあった方がいいとなると思います。でも1億円貯めたいからといって生活を徹底的に切り詰めてやっている人というのは、目的と手段を履き違えている気がします。
1つの指標として昔話題になった老後2000万円という軸があるので、まずは定年退職のタイミングで2000万円を持てる状況を作りましょう。その道筋が作れるまでは節約もしながら貯めた方が良いかもしれません。一方で、そこのある程度確実性が見えているのであれば、今の収入を増やす方にシフトした方が結果的に資産が増えると思います。
−なぜ、収入を増やすことが良いのでしょうか。
岸 自分への投資というのは、投資利回りが大きいです。例えば私はMBAを取得したことで、大きく年収が上がりました。年収が上がった状態が、定年退職するまで続くと考えると利回りが高いことが分かっていただけると思います。自己投資にも目を向けるのが、資産を増やす秘訣だと思います。収入に直結する資格は時間とコストの利回りだけでみるも多くが極めて高利回りです。
−初心者の方が陥りがちな投資の落とし穴はありますか。
岸 株価がすでに上がっている企業の株を買う人が多いのですが、株価が上がっているということはもう様々な情報が織り込まれているということです。株価が上がる前に買わなければいけません。
また、ネットの情報を鵜呑みにしすぎている人も多いと思います。一時期のブームの様にオルカンやS&P500など、ネット上で良いと言われている商品を鵜呑みにしすぎず、冷静に見た上で買う方が良いと思います。
−SNSでバズった情報が気になり、惑わされてしまうという人も多いと思います。
岸 多くの場合、その情報に対して否定的なコメントを書いている人もいると思うので、否定的なコメントこそ重視して見てください。それが理論的な否定であれば情報に惑わされず冷静になれると思います。誰かが言っているからではなく、自分の中で買う理由を納得してから買うのが大切です。投資というのは勝率100%はありません。いかに勝率を上げていくかが重要です。そこには経験や知識が必要になってきます。誰かが言っていたからという理由で買っても、それは経験にはなりません。間違っていても良いから、自分なりの理由をつけて買えば、違ったとしても敗因を分析し、勝率を上げていくことができます。
−PDCAサイクルをきちんと回すためには、どのくらいの頻度で、どういった情報収集をするべきでしょうか。
岸 各社の決算発表を軸に、新聞記事やニュースをチェックすると良いと思います。中級者以上は決算短信を重視する人が多いように感じますが、会社としては決算説明資料の方が丁寧に作っています。また全体的な政治の状況も見ておく必要がありますね。新聞はネットではなく、紙で見るのがおすすめです。なぜかというと、ネットニュースでは数十文字しか情報がなく、興味があるニュースを押して読まなければ情報が収集できません。一方で、新聞は多くの情報を得ることができます。また、自分が関心のなかった企業の情報まで知ることができるのも良い点です。実は新聞はすごく受け身で情報が入手できる媒体だと思います。
−投資で勝率を上げていける人と、失敗を繰り返してしまう人の違いは何だと思われますか。
岸 損切りをすぐしてしまう人や、キャピタルゲインばかりを目指そうとする人は失敗からなかなか抜け出せません。中長期でどうなるのか、どうしたいのかを考えるのが重要だと思いますし、個人的には利益確定は早めにした方が良いと思います。評価損益が1億あっても、株価が一気に下がったら意味がありません。こまめに利益確定をしておくのが大事だと思います。
−メンタルコントロールについてのアドバイスはありますか。
岸 自分のリスク許容度を明確にしておくというのが重要だと思います。いくらになった売るのか、投資を辞めるのかボーダーを決めておけばメンタルはブレにくいです。またハイリスク・ハイリターンの銘柄を買うと損益も大きく動くのでメンタルはブレやすくなると思います。
経済が良くなっても悪くなっても盤石な企業を見極めよ
−米国株については、トランプ政権の動きをどう見たら良いか分からないと思っている人も多いかと思います。どう捉えるべきでしょうか。
岸 トランプさんの言動は確かによく分からない部分もありますが、アメリカファーストという軸はずっと一貫しています。アメリカのために何をするか、アメリカ人から自分がどう見えるか。また製造業の国を復活させるというのはブレていないので、ブレていることとブレていないことを見定めることが重要です。
−アメリカの経済は今後も成長し続けると思われますか。
岸 アメリカ経済全体で見ると、多分良くなると思うけれどよく分からない、というのが正直なところです。ただ、特定の産業や特定の企業、例えばAppleやGoogleはそうそう崩れることはなく成長していくと思います。そういった点でいくと、単純にS&P500などでアメリカ経済全体に投資をするというのは個人的にはリスクだと思っています。これまではアメリカ経済が順調だったのでS&P500も順調でした。ただこれからは分からない。そのような中で、例えば日本経済も「失われた30年」と言われますが、その中でもファーストリテイリングは極めて強く成長し続けています。経済が良いときに成長する会社、経済が悪いときに盤石に成長し続けられる会社をいかに見つけていくかが大事になります。
−今注目している業界や銘柄はありますか。
岸 ワット・ビット連携という言葉は今年の後半、来年に来ると思います。国策としてデジタル庁中心に力を入れているキーワードで、政治が注目するということは今後お金が投下されるということです。公共工事もそうですけれど、公共政策を取りに行くってのはすごく重要かなと思います。
−今後の目標について教えてください。
岸 今の投資のポートフォリオは2025年下半期を見据えて行っているので、今後は2026年、2027年がどうなっていくかを考えていかなきゃいけないし、自らのスキルはさらにどんどん上げていかなければいけないと思います。特に、これから医療分野でのイノベーションが出てくると見越しているため、医療周りへの知見・スキルも増やしていきたいと考えています。
また今娘が10ヶ月なのですが、子ども手当などを全てアルトリアグループに投資していて20万円くらい貯まっています。6%の配当と考えると、毎年1万2000円、月に1000円くらいのお小遣いがあることになります。これが更に今後加速していきます。今、子育てが大変だといわれる時代だからこそ投資の力・重要性が増しています。この考え方を世の中に更に広めていきたいと思っています。
−個人投資家へのメッセージをお願いします。
岸 日本もアメリカも今政治や経済が大きく移り変わっています。ただそれって、凄くチャンスだということです。しかも、トランプさんを始め、テレビやニュース・新聞で出てくるプレイヤーがここまで固定されている時代は珍しく、注目するべき人が固定化されています。ます。世界を今誰が引っ張っていて、どう変わっていこうとして、どの会社・銘柄がプラスで、どの会社・銘柄がマイナスかを考えていく必要があると思います。100%勝てる投資というのはありませんが、色々なことを考えてチャレンジして、自分の中での最適解をぜひ見つけていただければなと思います。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。