商社マンからトレーダー、投資ストラテジスト、そして現在は投資情報提供やコンサルタントとして多方面で活躍する江守哲さん。
バブル崩壊、リーマンショックなど数々の相場を経験してきた彼が語るのは、SNSや書籍でよく語られる“夢のある投資”とは一線を画した、極めて現実的な投資の本質です。
「投資は、週末に練習しただけで舞台に立てるほど甘くない」
──厳しい投資の世界で成功も失敗も経験してきた江守さんだからこそ語れる、投資との正しい向き合い方とは。
江守哲氏
プロフィール
1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事に入社し、非鉄金属取引に従事。英国住友商事(現欧州住友商事)に出向し、ロンドンに駐在。Metallgesellschaft Ltd.(ロンドン本社、現JPモルガン)に移籍し、非鉄トレーダーとして活躍。2000年に三井物産フューチャーズに移籍し、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場の分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスに入社。チーフファンドマネージャーに就任し、ヘッジファンド運用を行う。2020年にエモリファンドマネジメントを設立。
投資を楽しいと思っているうちは、儲からない
−まずは簡単に自己紹介をお願いします。
江守 1990年、バブル期に花形であった商社に惹かれて住友商事に入社し、非鉄金属取引を始めました。1996年にロンドンに駐在した後、ロンドンで非鉄金属のトレーダー会社メタルゲゼルシャフト(現JPモルガン)に転職しました。そのままロンドンにい続けたい気持ちが強かったのですが、東京に戻ってくることになり、2000年に三井物産フューチャーズに移籍。コモディティ市場の分析を行うようになりました。2007年に投資顧問の会社であるアストマックスに入社、ヘッジファンド運用を行い、2020年にエモリファンドマネジメントを設立しました。
−投資に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
江守 昔から興味があったわけではなく、キャリア形成の中で自然とこの世界に入ったという感じです。ただ世界的に著名な投資家ジョージ・ソロスが1992年にポンドの空売りで数千億儲けたのを目の当たりにして、“こんな人がいるのか”と影響を受けました。
−投資の面白さに気づいたのはいつ頃ですか。
江守 実は、投資を面白いと思ったことはないんです。ジョージ・ソロスの言葉に、“投資を楽しんでいるようでは、儲かっていない”という言葉があります。投資というのはそんなに甘い世界ではないということです。よく私の講座でも最初にお伝えするのが、“簡単に儲かると思ったら大間違いですよ”ということ。一般的な理論さえ学べば儲かるという世界ではありません。その厳しさをまず知らなければいけないと思いますし、個人投資家が独学で儲けるというのは不可能に近いと思います。
−独学ではなぜ難しいと思われますか?
江守 よく週末に本屋で買った投資の本を読めば、翌日には取引ができるようになると思っている人がいるのですが、例えば週末に医学書を読んで、月曜日に外科の手術ができるでしょうか。バイオリンを週末に練習して、月曜日にすぐコンサートに出られるでしょうか。投資もそういったプロがいる世界だということを、理解すべきだと思います。
ただそこで諦める必要はないし、実際に利益を上げる方法はあります。資産運用は特に誰でも機会平等なので、その方法だけちゃんと理解しておけば出来るはず。だからこそ、正しい情報に行き着いて欲しいと思います。
初心者は、分散投資・長期投資一択
−専門家にきちんと学んだ方が良いという前提の上で、初心者が投資で気をつけるべきポイントは何でしょうか。
江守 何か1つのものだけに投資をするのはやめた方がいいということでしょうか。やはり、お金を守るためには分散して投資をするというのが投資の基本だと思います。同じような値段の動きをしてるものをたくさん集めてもしょうがないので、違うものをいくつかに分けて投資をすることをおすすめします。そういう観点で、私は20年以上前からゴールドに投資するべきだとお話しています。
−短期・中長期という時間軸に関してのおすすめはありますか。
江守 日本では“上がりそうな個別株を探して、それを当てに行く”ことが投資だと考える人が多いですよね。ただ個別株の選択というのは極めて難しいです。投資で一番難しいのは個別株の選択だと思います。個別株で成功したという人を見て、自分も出来ると思ってしまいがちですが、それは危険だと思います。アメリカでは“投資信託を長期で持って、資産を増やしていく”ことが投資だとされています。もちろん短期で一発当てたいんだという人はやれば良いと思うのですが、そうでない方は“長期しかない”と思っています。
長期投資を行う上で重要になってくるのは、決めたことを継続的に淡々とできるかということ。継続力です。SNSなどでおすすめされている銘柄に流されて寄り道しているようでは、資産は増えません。私自身もたまに反省していますが、継続力を持って資産を運用するという意識が重要だと思います。
−日本株や米国株、インド株など国はどのように選ぶべきだと思われますか。
江守 国の選び方は非常に重要だと思います。私としては、米国株はあと2〜3年で終わるので、寿命は近いという意識でやるという考えでいます。と言ってもアメリカを0にする必要はなくて、地域を分散しておくべきだということです。ヨーロッパ、日本、新興国、そしてインド。インドはこれから一番伸びるはずなので、ポートフォリオに入れておくべきだと思います。
−どのような割合でポートフォリオを組めば良いでしょうか。
江守 最近の市場環境を見ていると、ゴールドを3割程度は保有しておく必要があると思います。ゴールドは配当も金利もつかないので、持っていること自体にリターンは出てこないですが、資産を守るという観点で圧倒的に強みがあります。
株においてはリスクを抑えるという点から、高配当株の投資信託を多めに持つようにお話しています。配当がもらえると、それが原資になります。また高配当株は普通の株式の投資信託に比べて値動きが小さいので、そこもリスク管理として良い点です。高配当株を3割入れて、残りの4割で株式で勝負したらどうでしょうか、というお話をさせてもらっています。
−トランプ政権や中東情勢など、世界情勢を不安に思う人も多いと思います。江守さんは今の世界の状況をどのように考えていますか。
江守 トランプ大統領の就任が、後から考えると混乱の前兆になっているんじゃないかと思います。戦争は53年半に1回ほどのペースで起きていて、ベトナム戦争が終わったところで計算すると、2028年の半ばぐらいが戦争が来るタイミングと考えられます。2028年半ばは、ちょうどトランプ政権が終わるくらいの時期です。そうなると、我々が想像つかないようなことが起こるんじゃないかと危惧しています。
そういう意味でも今後は現金の価値がどんどん下がっていくので、投資やゴールドをやっておくべきだと思います。
ニュースではなく市場参加者の行動・心理を読め
−投資において成果を出しやすい人と、迷子になりやすい人の違いは何だと思われますか。
江守 素直さがあるかどうかだと思います。“今まで何年も投資をやってきたけれどうまくいきません”と私のところに来る方は、大体自己流を曲げることができません。様々な知識だけを身につけて、頭でっかちになってしまっている人もいます。
一方で、“初心者で全然分かりません”という方で、向上心のある方、乾いたスポンジのようにどんどん吸収してくださる方は、うまくいきやすいです。
−知識を身につけていくと、逆に情報に惑わされてしまうこともありますよね。情報の取捨選択はどのように行っていけば良いでしょうか。
江守 新聞やニュースを見て影響されるというのはやめた方が良いと思います。市場というのは、自分の予想した通りには動きません。思い通りにならないという前提で、誰が市場を動かしているかというと、市場参加者ですよね。ということは、市場参加者全体の動き・考えを最大公約数的に調べて、投資判断に入れていかなければうまくいきません。つまり、投資家の行動・心理・マネーフローの3つを押さえなければ、どんなにニュースを見ても市場で何が起きているかを理解することはできません。
−投資では、メンタルコントロールに悩まれる人も多いと思いますが、アドバイスをいただけますか。
江守 メンタルがきつくなる理由の1つは、ご自身のやっていることが、ご自身のキャパシティを超えている可能性があるということだと思います。例えば1000万円の資金を持っていて、それを全額、リスクの高い投資をしてしまうと、夜は眠れなくなりますし、仕事が手につかなくなるでしょう。であれば、投資の対象を変えた方がいいのか、投資の金額を変えた方がいいのか、その両方かもしれません。そこを調整しなければいけないと思います。
逆に一度、極端に金額を小さくしてみて、生活に支障が出ないラインはどこなのかを探してみると良いと思います。少しずつ調整していく中で見えてくることが多いと思うので、月単位で調整してみてはいかがでしょうか。
−長期投資において、資金をほったらかしにしてしまう人もいます。資産のチェックはどのくらいの頻度で行うべきだと思われますか。
江守 今や日々様々なことが起こる世の中なので、毎日確認しておくのが理想だと思います。何か行動を起こすとかではなく、自分の資産はどういうことが起きたときにどう変わるのかというのを確認するんです。自分の大事なお金を置いてるのに、全く見ないなんて本来あってはならないことだと思います。
最低でも週に何回かは、普段生活されていて気になるニュースがあったら、資産はどうなっているかをチェックしてみてください。そうしていく中で、次に何か起きたときはどういうことをした方がいいのか、その前に何かしておいた方がいいことはないのか、あらかじめ準備する力を身につけていくべきだと思います。
投資というのは上がるものもあれば、下がるものもあるので、それを調整する必要があります。半年に1回くらいは、上がり過ぎたものを少し減らし、減っているものを買い足して調整する“リバランス”をやってほしいと思います。それをやっていくうちに、知識も身についていくと思いますよ。
少しずつでも、資産を増やすチャンスは誰にでもある
−ご自身が投資をする上で大切にされていることは何でしょうか。
江守 リスクを取り過ぎないということです。短期間に増えたお金は、短期間でなくなります。トランプ第一次政権の時、1日数時間で600万円儲けましたが、その数時間後に失いました。そういう経験は何度もあります。投資は簡単に儲かるものではない。だからこそ、少しずつ増やしていくというのが大切です。大きな損をしない、大きな損が出るような取引はしないということは、徹底しなければならないと思います。
−今注力している活動や、今後の目標を教えてください。
江守 YouTubeも含め、個人投資家向けに発信する機会も増えてきたので、より深く広く、私のやり方をお伝えしていければと思っています。間違った情報を見て損をしてしまっている人を1人でも多く救っていきたいです。
−最後に個人投資家に向けてのメッセージをお願いします。
江守 投資は簡単ではありません。簡単に利益が上がるとは思って欲しくない。ただ短期で儲けようと思うから簡単ではないのであって、長期でやれば少しずつでも資産を増やせるチャンスは誰にでもあります。その基本的なところを、最初に正しく理解してほしいなと思います。そのために私もいると思ってますし、ぜひ頼ってほしいです。そうすれば、今までとは違う視点で運用に向き合えるようになると思います。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。