月間ノルマ1,250万円。ノルマが達成できなければ即クビ。
映画『ウォール街』で投資の世界に魅了され、金融の最前線に飛び込んだ堀江氏を待っていたのは想像を絶するシビアな世界でした。
プロのトレーダーとして10年間生き残り、たどり着いた投資の本質とは。
「証券会社に入れた時点でお金はゲームセンターのコインだと思え」、その言葉の真意とは。
個人投資家でもすぐに使える、実践的なノウハウとメンタル管理を紐解きます。
元機関投資家トレーダー堀江氏
プロフィール
1974年生まれ、横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期退学。大学院在学中に、倍率167倍の中途採用試験を突破し、証券会社の契約社員トレーダーとして入社。自己売買部門トレーダーとして株式と日経平均先物の取引をスタートし、相場観とテクニカル分析で利益をあげ続ける。その後、上場証券の自己売買部門トレーダーへキャリアアップ。プロのトレーダーになってから10年を機に個人投資家へ転身した。
映画をきっかけに証券会社へ。直面した「稼げないとすぐクビ」のシビアな世界
−まずは簡単に自己紹介をお願いします。
堀江 ディーラーになりたくて大学院で金融を学んでいた時に、新聞の求人広告で未経験でのディーラー職を募集していて、地場の証券会社に入社しました。デイトレードを中心に行い、その後上場証券の会社に転職しました。ディーラーを10年間務めたのち、個人投資家に転身して今に至ります。
−ディーラーになりたいと思ったきっかけは何でしたか。
堀江 高校生の時に『ウォール街』という映画を見て、“こんな世界があるのか”と驚きました。一攫千金を目指す主人公がのしあがっていく物語で、株でどんどん儲けていく姿にワクワクしましたね。
そんな時にたまたま進研ゼミの職業一覧の冊子が届いて、その中に銀行の為替ディーラーが載っていたんです。日本でもこういう仕事があるんだなと知って、ディーラーになりたいと思うようになりました。
−証券会社では利益を上げ続けなければならないシビアな環境にいたそうですね。
堀江 地場の証券会社では契約社員だったので、毎月設定された利益のノルマを達成できなければクビになることもある環境でした。基本給が安く、利益を上げてインセンティブを上げなければ生活が苦しかったので、就職当初はかなり大変でした。ただ未経験者は1年間の猶予が与えられていたので、利益を上げる方法を必死で学びました。上場証券会社に転職後は固定給が上がったものの、市場が大きい分ノルマも上がります。月間で1,250万円というハードなノルマが課せられました。
−シビアな環境でも続けられた理由は何だったのでしょうか。
堀江 やっぱり近くで大金を稼ぐ人たちを見ていたので、それがモチベーションになりました。自分も絶対にこうなりたい、稼げるようになろうと思いましたね。
金融市場という観点で言えば、ダイナミックな仕事であることが魅力だと思います。世界中のマーケットを把握しながら、自分の考えや分析をもとに取引をし、利益を上げられるかどうかというのはやっていて面白いです。
−世界中のマーケットを見るというのは難しさもあると思います。ご自身の中で判断基準をどのように定められていますか。
堀江 日々のニュースを新聞で読んで把握することはもちろんしますが、トレーダーはテクニカルで相場を見ているので、チャートを読み解く力が何よりも重要だと思います。新聞で得られる情報はいわば誰もがアクセスできる情報で、特別な情報は手に入らない。それだけで人より良い成績を上げられるわけはないんですよね。チャートの中にある情報から相場を読んで、判断していくことが求められる仕事だと思います。今が上昇トレンドなのか下落トレンドなのかを判断するための知識を持ち、判断軸を持つというのが大事だと思います。
お金は「ゲームセンターのコイン」だと思え
−投資の初心者が陥りやすいミスはありますか。
堀江 10年20年といった長期の積立投資をしようとしているのに、日々の値動きに一喜一憂している人は多いように感じます。しかし今日5%上がろうが、明日5%下がろうが、10年後の値動きからすれば大した問題ではありません。月足を見ることで、短期的な値動きに惑わされずに、大きなトレンドをつかむことができます。特に長期投資では日々の上下より、トレンドの方向性を重視するのが成功の鍵です。
−自分の投資はどういった時間軸なのかを理解していないまま値動きに惑わされるということが多いのですね。成果を上げやすい人と、なかなか成果が出ない人の特徴は何だと思われますか。
堀江 投資塾をやっていて感じるのは、成果が出ない人は教えていない場所でエントリーしたり、なぜそこでエントリーしたのかを説明できない場合が多い。教えた通りに素直に実践する人は成果が出やすいですし、教えたものとは違っても、筋の通った考え方と判断基準を持って投資が出来る人はすぐに成果が上がっていきます。
ただ投資はプロでも勝率6割で勝ち組と言われる世界です。勝率100%の方法を教えているわけではないですから、損切りが続くこともあります。そういう時にすぐに方法論を疑ったり、メンタルがブレてしまったりするとなかなか成果には繋がりませんし、諦めてしまう人が多いです。
−メンタルコントロールは投資において課題に感じている人も多いと思います。アドバイスはありますか?
堀江 私もディーラーになったばかりの頃はきつかったです。ロスカットになると、人格まで否定されたような気になることもありました。ただ失敗を繰り返しながら、自分なりの方法論を構築してきましたし、今では“あの状況ならロスカットになって当然だったな”と思えています。
よく私がお伝えしているのは、“証券口座にお金を入れた時点で、ゲームセンターのコインゲームのコインにしたと思え”ということです。コインゲームをしていて、コインが増えても減ってもメンタルまでブレることはないじゃないですか。そのくらいの気持ちでやった方が良いと思いますし、コインだと思えないくらい大切なお金を注ぎ込まない方が良いです。まずはなくなっても良いと思えるお金で始めるべき。知識も経験もない最初の段階で大金を注ぎ込むのは危険です。少しずつ始めて、自信がついてきたらもっと増やしていけば良いんです。
−堀江さんも失敗した経験はありますか?
堀江 もちろん何度もあります。例えば、基本的にはチャートのトレンド通りに動いていくのですが、下落局面でチャートの反転サインがあったにも関わらず、ファンダメンタルズを意識して利益を確定せず、ロスカットになったことがありました。
誰もが最初は失敗をしますし、失敗を何回も重ねながら、自分なりの方法論が構築されていくものです。そこでへこたれずに、同じ失敗をしないようにしたり、そこからどう学んで改善していくかを考えたりすることが重要だと思います。
「高値更新=怖い」は間違い?初心者こそ更新高値銘柄がおすすめ
−おすすめの銘柄はありますか?
堀江 高値を更新し続けてる銘柄が良いですね。よく高値を更新していると、そんなに上昇していると怖くて買えないという方がいますがそれは逆で、AppleやGoogleやテスラは、これまで長い期間、高値を更新し続けたから今株価が高いわけです。株式を何倍にもするためには、市場で高値を更新しているというのが必要なことなんです。
長期投資向けで下がってきた割安の銘柄を買おうとする人もたくさんいるのですが、下がってから戻る時にはレジスタンスラインがたくさんあるので、株価が止まって押し戻されてしまいます。だから上昇していくまでにすごく時間かかるんですよ。一方で上場来高値更新銘柄はレジスタンスラインがないので、株価が何倍にもなりやすい。だから高値更新銘柄を選んだ方がいいと思います。
−堀江さんは投資塾でもYouTubeでも順張りをおすすめされています。順張りがおすすめの理由は何でしょうか。
堀江 逆張りがダメなわけではないですが、ロスカットを設定する場所が難しいため、初心者にはおすすめしません。逆張りでは株価が下がってきて割安の状態で買うわけですが、初心者の人はここまで下がったらもうそろそろ下げ止まって戻るんじゃないかと思いがちです。ですがそう思った地点からもっと下がる時だって当然あるわけです。そうなった時になかなかロスカットすることができない。だから初心者の人にはリスクが大きいと思います。
−順張りでもトレンドを読む難しさはあると思うのですが、コツはあるのでしょうか。
堀江 そんなに難しい話ではなく、ダウ理論の通りにチャートが動いているかどうかを見ていけば良いと思います。波動を引きながら、トレンドの定義通りに動いているかを見ていくだけです。よく波動を引くのが難しいというご質問を頂くのですが、移動平均線を使って、移動平均線の上側なのか下側なのかというのを見ていくのをおすすめしています。
動画学習+伴走型へ。投資塾が目指す次のステップ
−堀江さんはYouTubeでも発信されています。なぜご自身の知識やノウハウを伝えていこうと思われたのでしょうか。
堀江 元々YouTubeはあまり見ていなかったのですが、ちょっとしたきっかけで投資関連のYouTubeを見て、適当なことばかり言っている動画が多くてびっくりしたんです。そういった動画でも再生回数が多かったり結構な登録者数がいたりして、きちんとした知識に基づいたものではないのに、それを信じてお金を注ぎ込んでしまう人がいるのは危険だと感じました。私が身につけた知識をお伝えすることで、そういった人を減らせればと思い、動画での発信を始めました。
−今後取り組んでいこうと思っていることはありますか。
堀江 投資塾では今、動画を見て勉強していただいて、質問に回答するという方式を取っています。何年かやってきて思ったのは、それだけだと身に付かない人もいるということです。同じ動画を見ても習得のレベルは人によって違うので、もっとオンライン上で伴走し、理解度を確かめながら進めていくやり方を考えています。
−最後に、読者にメッセージをお願いします。
堀江 投資において重要なのは、時間軸に適したチャートを見ることと、自分の中で一貫した判断軸を持つこと。そして失敗を重ねても落ち込むだけでなく、次への改善に活かしていくことです。“コインゲームだと思える範囲”で、まず一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。