かつては「高収入でも貯金ゼロ」の散財生活。
しかし100万円を貯める小さな挑戦から投資の道へ踏み出し、2023年に完全FIREを達成したのが九条さんです。
インデックス投資を軸に、米国株やAI関連株、仮想通貨、太陽光など幅広く実践してきた経験から、「信じて持ち続けられるか」が投資の本質だと語ります。
九条氏
プロフィール
資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを達成。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどを行うインデックス投資家。マイクロ法人の代表、フリーランス、ブロガーとしても活動する。
100万円貯金からスタート、14年間で総資産が約21倍に増加
−まずは簡単に自己紹介をお願いします。
九条 インデックス投資を中心に資産形成を行い、FIREを実現した投資家です。
かつては高収入でも貯金ゼロという、典型的な散財生活を送っていました。しかし「100万円貯める」というゲーム感覚の目標をきっかけに、貯蓄習慣が身につきました。サラリーマンとして働く中で「給料のために働いているだけではないか」という疑問も生まれ、株主こそが本質的な権限を持つという考えに至り、FIREを目指すようになりました。
現在はマイクロ法人の代表、フリーランス、ブロガーとして活動しています。FIREは人生100年時代の新しいキャリアを築くための助走期間だと考えており、仕事が好きで続ける「Coast FIRE」というスタイルを実践しています。
−どのように100万円を貯められましたか。
九条 大きく生活を切り詰めたわけではありません。ただ電子機器等、買わなくて良いものを衝動買いしてしまうことを控えるようになりました。
当時口座を開設していたシティバンクでは預金額100万円未満で手数料が発生するという条件があり、それが無駄遣いを減らす大きなきっかけになりましたね。早く手数料をなくしたいという思いから、生活スタイルが変化しました。
−投資歴について教えてください。
九条 貯まった資金でハイイールド債の投資信託を購入したのが投資の第一歩です。その後、日本株にも挑戦しましたが、株価変動のストレスに耐えられず短期で売却してしまいました。
転機は2007年、インデックス投資との出会いでした。『ウォール街のランダム・ウォーカー』『敗者のゲーム』を読み、S&P500や先進国・新興国株ETFの継続購入を開始。同時期に投資した米国ハイテク株と合わせて、これらが資産形成の柱となりました。
2018年に具体的なFIREシミュレーションを行い、資産運用益で生活できる見通しが立ったためセミリタイアを決断。2023年に会社も退職し完全FIREを達成しました。
−投資を始めて何年ほどで結果が出始めましたか。失敗談もあればお聞かせください。
九条 まずハイイールド債投資信託が長期運用で年平均5%程度のリターンをもたらしました。
本格的な成果は2007年のインデックス投資移行後です。2007年から2021年の14年間で総資産が約21倍に増加しました。
失敗も多くあります。2018年のVIXショックでは、コンタンゴ(先物は時間の経過とともに価格が減少する性質があります。これをコンタンゴといいます。)狙いのVIXショート取引で総資産の約3%を失いました。以後、オルタナティブ投資は総資産の5%以内と決めています。
TeslaやNVIDIAも大きく伸びる前に売却し、NVIDIAに至っては売却価格の10倍以上で買い戻すことになりました。
最大の後悔は時期に関するものです。2023年に完全FIREを達成しましたが、今思えば数年早く行動すべきでした。
−数年早く行動するべきだと思われたのはなぜですか。
九条 本当にFIREしても大丈夫だろうか、お金が無くなってしまうのではないか、FIREした後に退屈するのではないかという不安があり、行動に移すことができない期間がありました。
でも実際にFIREしてみると、資産は増え続けています。ここ5〜10年のうちにFIREを達成した僕の知り合いの中で、資産が減っている人は1人もいません。お金について心配する必要はなかったなと思います。ただ凄く市場が良い5〜10年でしたので、あくまで結果論ではあります。
また退屈するんじゃないかという点についても心配はありませんでした。暇になるどころか、やりたいことが多すぎて毎日が忙しい状態です。特にサーキット走行やスノーボードなどのアグレッシブなスポーツを楽しむことを考えると、もっと早くFIREすれば良かったなと思います。
−FIREを達成してからどんな変化がありましたか。
九条 最大の変化は「自由」の再定義です。誰からも指示を受けず、自分の判断で行動できる。平日昼間に映画やゲームを楽しんでも罪悪感はありません。
仕事観も変わりました。「お金を稼ぐ手段」から「世の中への貢献」「自分の楽しみ」へと目的が変化しました。利益追求から解放され、週10時間程度の裁量ある仕事だけを選んで働いています。
お金も「貯める・運用する」ものから「使う」ものへ。モノより体験を重視するようになりました。
−現在のポートフォリオについて教えてください。
九条 生活防衛資金を除き、資産の大部分をリスク資産に投資し、リスクプレミアムを最大化しています。
主要な保有資産の中心はインデックス投資です。S&P500連動ETF(IVV)、先進国株ETF(EFA)、新興国株ETF(EEM)を長期保有し、世界株式インデックスも大量に保有しています。
個別成長株は、インターネット初期にGoogle(現Alphabet)とAmazon、スマホ・SNS期にFacebook(現Meta)、2023年からのAI進化期にNVIDIAとMicrosoftに投資しました。
仮想通貨では、Bitcoinが総資産の11%超を占めています。株との低相関による分散効果、法定通貨下落への備え、「デジタル・ゴールド」思想に基づく保有です。
その他、2019年から太陽光発電6基を稼働させ、優待クロス取引も活用。消費税10%引き上げのタイミングには金(ゴールド)を購入し、FX、VIX、オプション、CFDなども一部活用しています。
−投資でのルールや、やらないようにしていることについて教えてください。
九条 投資先の長期的回復を信じ、安易な利確や損切りは避けます。銘柄分散と時間分散で銘柄固有リスクを排除し、10〜20年先の社会変化を牽引する企業に投資するメタトレンド投資を重視しています。
総資産の1%は「話題の最強企業」に投資するルールも設けています。多様な資産クラスへの投資も心がけ、仮想通貨、太陽光発電、優待クロスなどを組み合わせています。
FIRE後の多忙化も避け、どこかの企業に仕事で定期的に拘束されたり、自分の事業で従業員を雇って拡大するようなこともしません。過度な節制も避け、体験への支出を重視しています。資産額や影響力競争といった「成功依存」からも距離を置いています。
インデックスの長期投資は「ファイナルアンサー」
−投資初心者が最初にやるべきことは何でしょうか。
九条 投資初心者がまず取り組むべきは3つのステップだと思います。
第一に、貯蓄習慣と支出削減。10万円、100万円という小さな目標を達成する成功体験が重要です。支出を減らすことは貯蓄率の向上に直結し、FIRE実現スピードも早まります。
第二に、非課税口座の最大活用。NISA・iDeCoは利用しない理由がない制度です。新NISAの年間360万円枠は一刻も早く埋めて長期運用することで、パフォーマンスを最大化できます。
第三に、低コストのインデックスファンドでの長期保有。eMAXIS Slimシリーズなど手数料最安クラスを選択し、「信じて持ち続ける」ことが鍵です。
−短期・中長期、分散・集中投資、日本株・アメリカ株・インド株など様々な投資手法がありますが、初心者におすすめの手法は何ですか。
九条 様々な投資手法がある中で、初心者にとって「最強の投資法」であり「ファイナルアンサー」だと私が考えているのは、低コストのインデックスファンドへの投資です。
なぜインデックス投資なのか。それは市場全体に分散投資することで、個別企業の固有リスクを排除しながら、市場全体の成長を取り込むからです。過去のデータを見ても、長期的にはアクティブファンドの大半がインデックスに負けています。
地域については、全世界株式インデックスか米国株式インデックスがおすすめです。期間は長期一択です。初心者の方は、まずNISAで低コストのインデックスファンドを毎月積み立てることから始めてください。
−長期投資を行う際、どのくらいの頻度で振り返りを行うべきでしょうか。
九条 長期投資において最大の敵は、途中で怖くなって売ってしまうことです。株価が下がっている時に、このまま持ち続けて大丈夫だろうかと心配になってしまうのです。これを避けるには、ほったらかしにしておくのが最も良い方法だと思います。
フィデリティ投信の長期投資で一番運用成績が良かったのは「投資したことを忘れていた人」と「亡くなった人」という有名な逸話があります。長期投資をするのであれば、売買をしない、口座にログインしない、いくら持っているかを見ない、できれば経済系のニュースも見ないくらいの方が意外に上手くいくと思います。
−今後成長する・社会を変える企業を見極める方法はありますか。
九条 僕がやってきたのは、その企業がどのくらい世の中を変えるかを想像するということです。他の人より早く気づく必要はありません。例えば僕がGoogleを買った時、すでにGoogleは検索の王者でした。Amazonを買った時もすでにECの世界的なトップ企業でしたが、そのタイミングで購入してもGoogleもAmazonも株価は上がっていきました。
今で言えば、AIの圧倒的な王者はNVIDIAです。すでに株価が跳ね上がっていますが、今後10年単位で世の中はAIが大きく変革していくと思います。その時にどの会社が儲かるかはまだ分かりませんが、間違いないのはみんなNVIDIAからAIチップを買うということです。今から買っても遅くないと考えます。また、AIの基盤を動かしている企業、AIを活用したプラットフォームを運用する企業も業績を伸ばしていくと思います。
−ファンダメンタルズも重要でしょうか。
九条 僕は以前Teslaの株を保有していたのですが、現金が枯渇し倒産しそうな状況でも株価は上昇し、時価総額でFordを抜いたんです。さすがにこれは株価が上がり過ぎだろう? と思って売ってしまったんですが、今やトヨタを抜き、他の自動車メーカーを合わせても及ばないくらいの時価総額になっています。この経験から、素人がファンダメンタルズを分析しても正確な評価はできないと実感しました。プロのアナリストのレポートでも、Teslaはもうダメだ、割高だというレポートが当時は溢れていたと思います。ファンダメンタルズの観点で考えれば、NVIDIAも割高にしか見えなくなります。それよりは、「世の中を変える」という自分の直感を信じた方が後悔もしないと思います。
国は老後を支えられない、だからこそ投資は必須
−トランプ政権や戦争、日本の人口減少など、動き続ける世界情勢の中で、投資ではどんなことを意識すれば良いでしょうか。今の世界情勢をどのように捉えていますか。
九条 政治・地政学リスクは短期的に市場へ影響を与えます。最悪シナリオとして米国でのインフレ再燃、利上げ再開、株価低迷、円安進行など、株式・債券双方に厳しい局面も想定されます。
ただし、市場は政策発表に過剰反応し、早晩元の水準に戻るケースも多いのが現実です。投資で意識すべきは「短期的変動に一喜一憂しない」ことです。市場予測は困難であり、確率的に有利な選択肢を選び続ける合理性が重要です。
日本の現状を見ると、人口減少、長寿化、終身雇用の終焉、年金制度の不安定化により、国や企業への依存は難しくなっています。国が個人投資を推奨する背景には「国は老後を全面的には支えられない」という現実があります。
だからこそ投資は選択肢ではなく、「自分でなんとかする」ための必須手段と位置づけるべきです。インフレの時代に入った今、債券や現金はどんどん価値を失っていくので、資産の多くを株式においておくというのは合理的だと思います。
−初心者がやりがちなミスや失敗は何だと思われますか。
九条 最大のミスは「投資を始めない」ことです。その他、「分散投資の軽視」も問題です。個別株の固有リスクは理論的には追加リターンをもたらさないため、広範なインデックス投資が合理的です。
長期リターンを損なう暴落時の狼狽売りや、コスト・税制優遇の軽視、ドルコスト平均法の誤解、詐欺的投資話への誘引も典型的なミスだと思います。
一方で、資産のごく一部(1%)を社会を変える可能性のある銘柄に投資する機会をもってもいい。半数が失敗しても成功銘柄が全体収益を押し上げます。
−投資で迷子になる人の違いはありますか。
九条 結果論バイアスに陥り、結果が出てから判断を変える人は要注意です。サイコロを2個振った時、どの数字が出ることに掛けますか?2が続けて2回出たからといって、次も2だと予想するのが結果論バイアスです。合理的なのはもちろん、確率をもとに7に掛け続けることです。
メンタルコントロールの基本は「投資哲学の確立と一貫性」
−自分に合う投資のやり方・マイルールをどのようにして見つけていけば良いと思われますか。
九条 まず「自己理解と人生目標の明確化」から始めることです。投資はお金を増やすためだけでなく、人生の目的達成の手段と捉える。自分のリスク許容度を把握し、若いうちは人的資本(稼ぐ力)を最大化することが重要です。
次に「投資哲学とマイルール構築」です。投資判断はロジックとエビデンスに基づき、一度信じた投資先は長期保有する。バフェットの「10年間持てない株は10分も持つな」という考え方に共感しています。
−最近ではYouTubeやXなどのSNSでも様々な投資に関する情報がある中で、良い情報を取捨選択し、不確かな情報に惑わされないためのアドバイスをお願いいたします。
九条 情報源の見極めが最も重要です。金融機関やFPなどの「プロ」からの情報は、高コスト商品への誘導が潜む場合があるので注意が必要です。一部のブロガーやYouTuberはモダンポートフォリオ理論に沿った長期・分散・積立の情報や、NISA活用・低コストインデックス投資を推奨しており、有益な場合があります。
基礎固めは書籍から始めることをお勧めします。『ウォール街のランダム・ウォーカー』や『敗者のゲーム』など、投資原則を体系的に学べる書籍から長期的な視点と理論を習得してください。
最も大切なのは、生涯学習の姿勢を持つことです。投資知識だけでなく、キャリアや人的資本向上にもつながる継続的な学びを重視してください。
−投資にはメンタルコントロールも大切だと思います。メンタルを保つ秘訣や、心がけていることはありますか。
九条 投資におけるメンタルコントロールの基本は「投資哲学の確立と一貫性」です。一度信じた投資先は、よほどの理由がない限り長期保有します。僕は短期トレードも経験してきましたが、含み損が増えると夜も眠れなくなってしまいますし、すぐに売りたくなってしまう。こういう投資をしていても時間がもったいなく、そもそも大したリターンにならないと学びました。
行動経済学のバイアスを理解することも重要です。損失回避バイアスによると、損失の精神的苦痛は含み益減少より大きくなります。この心理を理解し、損失に耐える仕組みを整えることが大切です。
最も心がけているのは「市場の変動は当たり前」と受け入れることです。この当たり前を受け入れられれば、短期的な変動に心を乱されることはありません。
注目はAIを軸にしたメタトレンド投資
−今後注目しておいた方が良い投資手法や業界はありますか。
九条 最も注目しているのはAI業界です。2022年にStable DiffusionとChatGPTが登場し、2023年3月のGPT-4公開で「AIは人間より賢い」時代へ突入しました。2023年春に、AIの進化が確実と判断し、NVIDIAとMicrosoftに投資しました。元OpenAIのレオポルド・アッシェンブレンナー氏の見解を引用すると、AIは今後10年で大学卒業生レベル、さらに超知能に到達すると予測されています。演算量・電力需要も爆発的に増加し、2028年にはデータセンター規模が現在の100倍、2030年にはさらに100倍になる可能性があります。
OpenAIの収益は半年ごとに倍増し、Microsoftなど大手は2026年半ばにAI関連で年間1,000億ドルの収益を達成する可能性があります。これは半導体産業のムーアの法則に匹敵する指数関数的成長だと捉えています。
−ご自身の今後の目標について教えてください。
九条 今後の大きな目標は寄付・チャリティ活動の拡大です。寄付は「公共の利益向上」が目的ですが、どうせ税金で取られるなら自分が評価する組織に資金を活用してほしいという思いもあります。効果的利他主義(EA)に共感し、感情ではなく科学的根拠と論理に基づき、効果最大化を重視しています。
寄付対象は科学技術の発展を推進する教育・研究分野を重視しています。京大数理解析研究所、数学オリンピック財団、JASSO、国立科学博物館、米電子フロンティア財団などに寄付し、ブログで寄付実績も公表しています。
バケットリスト(棺桶リスト)も作成しています。博士号取得、長距離サイクリング、富士山登頂、出版、Webサービス開発、世界一周など多岐にわたる項目があり、すでに会社設立、経済的自由、出版、しまなみ海道走破などは達成しました。
FIRE後も資産増加やSNSフォロワー数競争など、形を変えた成功依存に陥る可能性を警戒しながら、本当に価値のあることに時間を使いたいと考えています。
−個人投資家に向けてのメッセージをお願いします。
九条 多くの方は「いつ買うか」「何を買うか」を気にしますが、私の答えはシンプルです。何を信じて持ち続けられるか、これがすべてです。GoogleやAmazon、NVIDIAなどを持っていますが、これらは狙って当てたわけではなく、少額で始めたものが結果的に大きく育っただけです。資産の大半は、全世界株式インデックスと米国株式インデックスです。個別株への投資は総資産の1%程度で十分だと思っています。
市場予測は当たりません。GDPが伸びている国の株が必ず上がるわけでもありません。だから私は「市場を当てるゲーム」ではなく、「合理的な選択を続けるゲーム」だと割り切ることが重要です。現金も、生活防衛資金と近々必要なお金以外は、できるだけリスク資産に置くようにしています。
投資は資産を増やすだけではなく、自分の時間と選択肢を取り戻すための手段です。FIRE後、寄付や新しい学びに時間を使えるのは、投資を通じて経済的な自由を確保したからです。株価の一喜一憂よりも、自分がどんな人生を送りたいのかを先に決め、その実現のために投資を位置づける——これが、FIREを目指す方にお伝えしたいメッセージです。

株トレード歴40年のプロトレーダー相場師朗先生が監修する株式投資情報総合サイト「インテク」の編集部です。今から株式投資を始めたいと思っている投資初心者の方から、プロが実際に使っているトレード手法の解説までの幅広いコンテンツを「わかりやすく、気軽に、実用的に」をモットーに発信しています。